2017 Fiscal Year Research-status Report
ボランティアの社会的経済的価値に関する研究-集団・組織レベルでの評価を中心に-
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16K04177
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Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
渡辺 裕子 駿河台大学, 経済経営学部, 教授 (10182958)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
南林 さえ子 駿河台大学, 経済経営学部, 教授 (80189224)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 社会生活基本調査 / 匿名データの利用 / ボランティアの経済的価値 / NPO法人 / 二項ロジスティック回帰分析 / ボランティアの行動要因 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.研究の目的:(1)本研究の最終的目標は集団・組織(メゾ)レベルでのボランティアの社会的経済的価値の測定にある。しかし、マクロレベルのほうが先行研究も多く、またメゾレベルとの接合の可能性を模索するため、まずはマクロでの測定を行うこととした。次いで、(2)集団・組織レベルの分析の対象に選定したNPO法人に対して、職員やボランティアの無償労働・活動等の評価を試みることとした。 2.研究の方法:(1)マクロレベルでの経済的価値を分析するために、総務省「社会生活基本調査」の匿名データ、及び、公表された統計表を利用した。(2)障害者系NPO法人の職員・ボランティア・家族会・当事者会に対して、自記式調査を実施した。調査項目は、①ボランティアの内容と時間数、②活動に際して自己負担した費用の種類と金額、③業務における無償の労働時間等である。 3.研究の成果:(1)「社会生活基本調査」を利用して、日本全体におけるボランティアの経済的価値の評価を行った。「行動者数 × 一人あたりの行動時間 × 賃金率」により概算した結果は、内閣府や日本ファンドレイジング協会による先行研究と近似した値となった。しかし、行動時間の調査法や賃金率の設定によって、推計値が大きく左右されることも示された。(2)「社会生活基本調査」の匿名データを利用してボランティア種類別の行動要因を分析した。ボランティアをする/しないの行動がどのような要因によって説明できるかを属性要因によって示すことができた。また、ボランティアの種類別の行動パターンとの関係を示した。1996年、2001年、2006年の3回分の調査で時系列的な変化を確認した。(3)NPO法人の会計上の人件費に含まれない無償労働や活動の経済的価値を、暫定的ではあるが推計した。さらに(4)同法人を対象とした派生的な研究(法人の運営)にも取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.「社会生活基本調査」におけるボランティア活動の分析:(1)日本全体におけるボランティアの経済的価値の評価は、昨年度中に「社会生活基本調査(生活行動編)」のデータについて分析のための環境をおおむね整備していたことから、論文として『駿河台経済論集』(学内紀要)に発表できた。(2)ボランティアの行動要因については、30年度の『駿河台経済論集』に出稿予定である。 2.集団・組織レベルの活動の分析:(1)障害者の就労を支援するNPO法人を対象としたケース・スタディを7月頃より開始した。当初は2017年度にはまず、分析方法論の検討や調査準備のためのヒヤリングを行う予定であった。しかし、当該の法人が現在抱えている、障害者就労訓練の場としての公共施設内喫茶の運営の問題に、優先して協働で取り組むこととなった。そのため、喫茶の売上げ分析とともに、11月に利用客及び潜在的利用客を対象として、喫茶の利用行動と利用意向に関する統計調査を実施した。この調査は本研究課題との直接的な関連はないが、具体的な共同作業を通じて、法人組織の状況がより良く理解できるという副次的なメリットが生じた。これについては現在、論文を作成中である。(2)職員やボランティアの無償労働・活動に関する予備的な自記式調査を2月に実施した。マクロレベルでの推計方法を援用し、NPO法人における多様な無償労働・活動について「時間数×賃金率」で算定を試みた。 以上のように、途中で計画外の課題の追加もあったが、年度末にはほぼキャッチアップすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.「社会生活基本調査」によるボランティア活動の分析:(1)「社会生活基本調査」匿名データの1996年、2001年、2006年の3回分を利用して、各回のボランティア種類別の行動要因を分析中であるが、時系列的にどのような変化が起こっているかをより詳細に示したいと考えている。また、ボランティアをする/しないの行動がどのような要因によって説明できるかを属性要因によって示すことに加えて、今後のボランティア活動の展開の可能性を見出したいと考えている。(2)匿名データの借用期間は3ヶ年と定められているため、データの有効活用を図る。本研究からの派生的課題となるが、未分析である「生活時間編」を中心に、ボランティア活動と他の生活時間配分との関連や、会社員・自営業・公務員等の職業による生活時間構造の違いを明らかにする。それを通じて、有職者のボランティア活動を容易にする条件を探る。 2.集団・組織レベルにおけるボランティアの評価:(1)2017年度はまず、近年提唱された「社会的投資利益(Social Return on Investment)」の概念を活用した方法論等の検討を行った。しかし、SROIは定性的なアウトカムも多く含む包括的な枠組みであり、実証的方法を中心とした本研究課題に適用するには困難が大きいと判断した。そこで、NPO法人の活動において障害者の自立・就労による社会的費用の削減効果を評価する、やや限定的な分析枠組みを構築する。(2)費用と効果の関連を分析するために、費用の部分については、2017年度に実施した職員やボランティアの無償労働・活動に関する調査方法を改善する。(3)(1)と(2)の検討を踏まえた上で、当該NPO法人の社会的経済的価値の評価を行う。
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