2016 Fiscal Year Research-status Report
東アジアにおける高齢者介護制度の構築段階と日本の経験の伝播に関する研究
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16K04252
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Research Institution | National Institute of Population and Social Security Research |
Principal Investigator |
小島 克久 国立社会保障・人口問題研究所, 国際関係部, 第2室長 (80415819)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金 貞任 東京福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (00364696)
沈 潔 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (20305808)
于 洋 城西大学, 現代政策学部, 教授 (60386521)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 高齢者介護 / 介護制度 / 東アジア / 介護制度国際比較 / 高齢化 / 高齢化対策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではまず、東アジア(日本、中国、韓国、台湾)の高齢化の現状について各国政府・地域当局の統計で把握した。具体的には、高齢化の動向の他、その地域差、(75歳以上の)後期高齢者の割合、高齢者の家族構成(特にひとり暮らし高齢者の割合)、である。東アジアの高齢化は今後わが国以上の速度で進む見通しである他、後期高齢者の増加もわが国以上の速度で進む見通しである。また、ひとり暮らし高齢者の増加も着実に進んでいる。さらに、高齢化の地域差がそれぞれの国や地域内で見られる。 次に、東アジアの高齢者介護制度の現状と課題、わが国との相違点や影響について分析を行った。2008年に介護保険を導入した韓国は、全国民を被保険者(給付対象は主に高齢者)で、保険者が全国で単一という点がわが国と異なる。台湾は税方式の仕組みであるが、要介護認定があり、自己負担もある。給付は介護サービスだけでなく、わが国を参考にした福祉用具の給付もある。中国では、介護保険の全国的な実施を目指し、2016年から一部の地域でモデル事業を開始した。都市従業員医療保険を活用した仕組みであり、給付内容も地域による異なる。韓国の介護制度はわが国を参考にしつつも、保険財政の安定、医療保険保険者の専門性を重視した結果、わが国と異なる保険者となった。台湾は、わが国の介護保険を参考にしつつも、介護制度そのものは介護基盤整備段階にある。中国はわが国などの外国を参考にする面はあるが、中国独自の事情をもとに制度を構築する方向にある。そのような中、日本の「地域包括ケアシステム」を意識した、韓国の「統合在宅サービス」、台湾の「地域包括ケアモデル」がモデル事業として施行されている。つまり、地域密着の介護システムの構築が共通して見られることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究班メンバーのこれまでの研究の蓄積、研究ネットワークを活用することで、各国・地域の高齢化の動向(特に地域差の把握)の他、介護制度の現状や動向、わが国との類似点や相違点、その背景に関する情報の収集・分析を迅速に進めることができた。韓国については、保険者である国民健康保険公団の研究所からの情報収集や意見交換が進んだ。台湾については、「長期照顧十年計画2.0」と呼ばれる新しい介護政策プランの草案、住民への説明会の記録の分析、現地の協力者からの詳細な情報の入手が迅速にできた。中国については、2016年から16カ所で行われる介護保険モデル事業の現状の把握と分析の他、中国の政策関係者や研究者からの情報収集を進めることができた。 また、東アジア地域で共通する政策方向として、地域密着型の介護システムの構築、独自の点として、外国人介護労働者のあり方や新しい介護プランで明確にされた原住民族への介護システム構築(台湾)、地方政府ごとに異なる介護保険モデル事業(中国)などを明らかにした。これにより、初年度に予定されていた研究を進める一方で、新しいものを含めた、次年度以降の研究の論点をより明確にすることができた。 一方で、高齢者の健康状態、特に要介護度については、要介護度の定義が国や地域により異なることもあり、分析の一部を翌年度に持ち越すこととなった。しかし、各国・地域のセンサスなどを活用することで、この分析が可能であること、台湾はすでにデータが収集済みであるため、これが研究の進捗に与える影響は軽微である。 これらの状況より、本研究課題の進捗はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、研究2年度目として前年度の成果と課題をもとに、以下のように進める予定である。 (1)高齢者介護制度の発展段階の整理 東アジアの高齢者介護制度の情報収集を継続するとともに、前年度に収集・分析した情報と併せて、東アジアの介護制度の発展段階をまとめる。検証のための仮の段階分けとして、①先行グループ(社会保険方式による介護制度を構築:日本)、②後続グループ(社会保険方式による介護制度を構築中または検討中:韓国・台湾)、③後発グループ(介護制度構築に向け始動:中国)の3つを設定する。それぞれのグループの分け方が適切か否かを、①介護制度の内容や構築プロセスの特徴、②直面している課題の2点から検証する。①、②ともに各段階の共通点はもとより、相違点(財源確保、制度運営者、地域密着型のサービスを含めた介護サービス提供のあり方、家族介護者支援、外国人介護労働者の活用の有無等)やその背景に焦点を置く。前年度から継続となった高齢者の健康度のデータの収集・分析も行う。 (2)東アジアへの日本の経験の伝播プロセス 上記の検証結果をもとに、日本の介護制度での経験が、②の後続グループや③の後発グループの国や地域の介護制度に伝播した側面について分析する。焦点を置くポイントとして、財政方式、制度運営者、介護サービスの内容(地域密着型のサービス提供の枠組み構築、現地でのカスタマイズの程度)の他、伝播のルート(日本と相手国・地域の政策関係者、研究者、介護サービス関係者)とする。特に最後のポイントは、日本からの進出企業、人材、日本で学んだ政策関係者や介護サービス関係者に焦点を置き、情報収集や分析を進める。
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Causes of Carryover |
研究代表者は台湾出張を予定していたが、現地での招待講演(渡航費先方負担)が入り、その会議参加の傍らで、各種情報収集を行うことができた。研究班メンバーは資料整理用のPCを導入予定であったが、所属機関のPCシステムセキュリティのガイドライン強化の関係で、その導入を一時見送らざるを得なくなった。さらに、中国、韓国、台湾から収集できた資料の多くが想定以上に電子化され、整理不要のものが多かったため、資料整理のアルバイトの雇用が想定より少なく済んだ。このような、支出の一時的な見送りが生じたことなどのため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究代表者をはじめ研究班メンバーは平成29年度に中国で行われる国際学会の参加を予定しており、現地では中国や韓国の研究者や政策担当者との意見交換を予定している。また、研究代表者の所属機関が中国民政部の研究機関との連携協定を締結したため、中国からの資料入手が容易になるが大量になるため、資料整理の作業が見通されている。さらに、メンバーの所属機関の新しいPCセキュリティの運用が開始され、その基準にあった形でPC導入が可能になった。そのため、昨年度に支出を一時的に見送った、旅費、アルバイト謝金、備品購入費に対して、次年度使用額を活用して支出する予定である。
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Research Products
(16 results)