2017 Fiscal Year Research-status Report
東アジアにおける高齢者介護制度の構築段階と日本の経験の伝播に関する研究
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16K04252
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Research Institution | National Institute of Population and Social Security Research |
Principal Investigator |
小島 克久 国立社会保障・人口問題研究所, 情報調査分析部, 部長 (80415819)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金 貞任 東京福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (00364696)
沈 潔 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (20305808)
于 洋 城西大学, 現代政策学部, 教授 (60386521)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 高齢者介護 / 介護制度 / 東アジア / 介護制度国際比較 / 高齢化対策 / 中国 / 韓国 / 台湾 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の本研究は、東アジアの中で介護制度の構築の現状をもとに、①先行グループ(日本)、②後続グループ(韓国、台湾)、③後発グループ(中国)に分類し、それぞれの介護制度の動向、日本との類似点や相違点、②や③の国や地域において日本の介護制度構築の経験の影響の分析、②の国や地域で日本が参考とすべき側面の分析を進めた。 まず、先行グループの日本については、2017年の介護保険法の改正、地域包括ケアシステムの構築の動向、外国人介護労働者の受入などの把握を行う一方で、介護保険の構築、関連する政策(特に民間事業者活用のための規制改革)について整理した。 次に、後続グループである韓国と台湾については、韓国の介護保険制度の動向把握の他、台湾の新しい税方式の介護制度である「長期照顧服務十年計画2.0」の内容やその後の変更点と背景を把握した。特に、その中の「地域包括ケアモデル」について、日本の「地域包括ケアシステム」を参考にした点、台湾独自の点について分析を行った。一方で台湾が先行する「外籍看護工」の現状と日本が参考とすべき点の分析も行った。 後発グループと分類した中国については、中国の介護制度構築の経緯、2016年から実施の「介護保険モデル事業」の内容と特徴の把握、日本の介護制度への関心度の高さを中国の学術論文等からの把握を行った。中国では日本の介護保険、介護サービスへの関心が高いが、この「介護保険モデル事業」は医療保険付属型であり、日本と大きく異なる側面を持つことを明らかにした。 このように、東アジアの国や地域では、政策立案、政策研究面で日本の介護保険、介護サービスへの関心が高く、多くの経験が伝播している。しかし、外国人介護労働者の活用が多い台湾、独自の経緯を持ち、医療保険付属型の介護保険を試行している中国という、国や地域による独自性も見られることがよりいっそう明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究班メンバーのこれまでの研究の蓄積、研究ネットワークを活用することで、各国・地域の高齢者介護制度の現状や動向、わが国との類似点や相違点、その背景に関する情報の収集・分析を迅速に進めることができた。韓国については、政権交代による介護制度に関する動きが微々たるものであった中、保険者である国民健康保険公団研究所からの情報収集や意見交換を進めた。台湾については、新しい税方式の介護制度である「長期照顧十年計画2.0」の概要、変更点に関する分析、現地の協力者からの詳細な情報の入手が迅速にできた。中国については、2016年から15カ所で行われる「介護保険モデル事業」の概要や特徴の分析の他、中国の政策関係者や研究者からの情報収集を進めることができた。 また、東アジア地域で共通する政策方向として、日本の経験に着目した地域密着型の介護システムの構築がある一方で、独自の点として、医療保険活用型の介護保険(韓国)、税方式の介護制度と併存する外国人介護労働者の活用、原住民族に配慮した介護システム構築(台湾)、これまでに進めてきた介護制度の動きと背景(中国)などを明らかにした。これにより、昨年度までに予定されていた研究を進める一方で、新しいものを含めた、次年度以降の研究の論点をより明確にすることができた。 韓国では政権交代があったため、介護制度に関する動きがほとんど見られなかったが、現地との研究協力者とのネットワークの維持、情報交換を継続してきた。そのため、新しい動きがあれば対応が可能な状態にあり、研究への影響は現状では軽微なものと考えている。 これらの状況より、本研究課題の進捗はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は前年度まで行ってきた分析を継続しつつ、「東アジアの高齢者介護制度について、日本の経験の伝播の一方で、東アジアの中での介護制度の多様性に関する知見をまとめる」ことに焦点を置く。 まず、東アジアの介護制度に特徴の共通点を欧米とも対比しつつ整理する。特に、①財政方式、②介護サービス提供体制(民間事業者の活用等)、③家族介護者支援、に着目する。これらの側面から欧米諸国と比較した上での東アジアの特徴をまとめる。 次に、東アジアの介護制度は、日本の制度やノウハウを参考にしつつも、各国・地域独自の特徴を持ちつつある。こうした東アジアの介護制度の多様性を、①制度内容の細かな違い、②その背景としての日本の経験の伝播の程度、に着目してまとめる。特に後者は、日本の経験をもとに制度を構築する、日本と同じ仕組みは取らない、といった対応が考えられる。ここでは両者を視野に入れ、先行して介護保険制度を実施した日本に対して、各国・地域が関心を持ったポイント、これがどのように各国や地域の介護制度に伝播したか、その結果としてどのような課題が現れているかについて、これまでの成果等をもとにまとめる。そしてその中での、政策関係者、研究者、介護サービス関係者の役割を明らかにする。 そして、東アジアで進む急速な高齢化や高齢者の変化が見通される中、東アジアの介護制度の中で、新たに検証すべき課題のリストアップを行うことが出来る。これをもとに、今後の研究課題の設定にも努める。
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Causes of Carryover |
(理由)研究代表者はこの研究事業での中国出張を予定していたが、現地での招待講演(渡航費・宿泊費先方負担)が入り、その会議参加の傍らで、各種情報収集を行うことができた。研究班メンバーは資料整理用のPCを導入予定したが、中国、韓国、台湾から収集できた資料の多くが想定以上に電子化され、資料整理のアルバイトによる作業も想定以上の早く進んだため、雇用が想定より少なく済んだ。このような事情による支出の見送りが生じたことなどのため、次年度使用額が生じた。 (使用計画)研究代表者をはじめ研究班メンバーは平成30年度に中国や中国などで行われる国際学会の参加を予定しており、現地では中国や韓国などの研究者や政策担当者との意見交換を予定している。また、研究代表者の所属機関が連携協定を結んでいる中国や韓国の研究機関からの資料入手が大量になるため、資料整理の作業の増加が見通されている。そのため、昨年度に支出を一時的に見送った、旅費、アルバイト謝金に対して、次年度使用額を活用して支出する予定である。
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Research Products
(25 results)