2018 Fiscal Year Research-status Report
マインドワンダリングのポジティブな機能に関する多角的検討
Project/Area Number |
16K04420
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
関口 貴裕 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (90334458)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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Keywords | マインドワンダリング / 課題無関連思考 / 知的好奇心 / 記憶の保持 / wakeful rest |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は,マインドワンダリング(MW)が他の心的活動に対して持つポジティブな機能(機能的意義)を明らかにすることである。これに関し平成30年度は,以下の2つの研究を行った。 1)MWと知的好奇心の関係: MWの機能の一つは,関心事について詳しく考え,プランニングをしたり,問題解決など促したりすることである。そうであるならば,様々なことに関心をもつ「知的好奇心」の強い者はMWが多い可能性がある。昨年度までの研究では,質問紙法を用いて,知的好奇心の強さがMWの起こりやすさに与える影響を検証したが,本年度はさらにweb調査によるデータ(327名分)を加えて,知的好奇心,MW傾向,特性不安,実行制御能力の関係をモデル化した。その結果,特殊的好奇心,拡散的好奇心が特性不安や実行制御能力と独立にMW傾向に正の影響を与えていること,ならびに特性不安は,実行制御の弱さを介し,MWに間接的に影響していることを明らかにした。この結果は,昨年度までの成果を補強して,MWが知的好奇心というポジティブ特性と関係することを示すものである(日本心理学会第82回大会で報告)。 2)MWが記憶に与える影響: 近年,言語刺激などを記銘した後,何もしない状態でいることが記憶の保持を促進することが示されている(Dewar et al., 2012)。本年度は,この現象を再現するとともに,課題負荷の高低が記憶保持に与える影響を実験的に検証した。その結果,何もしない状態は記憶保持を促進したが,課題の存在は負荷の高低にかかわらず,その後の記憶再生に妨害的に影響することを見いだした。 この他,日本心理学会第82回大会の公募シンポジウム「イマジネーションの認知機構と脳内神経基盤」において話題提供を行い,直感像,空想傾向,空想の友達などの現象とMWの関係性に関する議論を通じて,MW研究についての新たな視座を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
交付申請書に記した研究のうち「知的好奇心の個人差がMW生起に与える影響の検討」については,これまでに得られた知見を,調査を重ねて確かなものとしており,順調に進展している。また,「経験サンプリング法を通じた課題無関連思考の機能と個人特性の関係の検討」については,無意図的音楽イメージを題材とした研究により,やはり新奇な知見を見いだしている。さらに本年度は「MWをすることが記憶の働きに与える影響の検討」に取りかかり,先行研究の再現可能性を確認し,また研究手法も確立することができた。 一方で「fNIRSによる脳血流測定を通じたMW測定法の検討」「MWをすることが記憶の働きに与える影響の検討」については,未着手に終わってしまった。 以上より,これまでの成果をより確かなものとしつつ,新たな研究の足がかりは確立したが,研究課題全体に対し十分な成果が得られたとは言えないため,平成30年度の研究は「やや遅れている」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は,平成30年度までの成果を学会や論文誌にて発表するとともに,これまでに得られた成果のうち,より深く検討する必要がある以下の2テーマの研究を重点的に実施し,成果を確実にあげることができるようにする。 1)行動データにより測定したMW傾向およびその思考内容(未来思考,過去思考など)と知的好奇心との関係を検討する。それにより,これまでに得られた知的好奇心とMW傾向の関係に関する知見を,MWのポジティブ機能の観点からより詳細に明らかにする(5~7月に実施予定)。 2)MWが記憶の働きに与える影響について挿入課題の種類を操作することで,それが生起する条件を明確にしていく(4~9月に実施予定)。 また,時間的,人的余裕に応じて「fNIRSによるMWの生理計測」「MWが創造的思考に与える影響」の検討を実施する。
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Causes of Carryover |
(理由)平成30年度は,これまでの成果を国際誌に投稿するための英文校正費,論文掲載費を確保していたが,本務校における業務の多忙さなどもあり,論文投稿にいたることができず,その分が未使用となってしまった。また,研究の遅れから,本来行うはずであった実験のための物品費,謝礼品費などが執行されず,残額が発生してしまった。そこで補助事業期間の延長を申請し,残額を次年度使用額とした。 (使用計画)次年度使用額は,これまでの成果を英文誌に投稿する際の英文校正費,論文掲載費として約200,000円,実験実施のための物品購入費,謝礼品などに150,000円,オンライン調査などに約100,000円,成果発表のための旅費などに約100,000円を使用する予定である。
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