2016 Fiscal Year Research-status Report
空間学習の神経基盤と調節機構に関する生理心理学的研究
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16K04431
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
岡田 隆 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (00242082)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 海馬 / 接近行動 / 空間認知 / ラット |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、空間認知機能に対するメラトニンの影響を調べるための海馬スライス標本を用いた生理実験システムの構築を行うとともに、T字型走路を用いたラットの他個体への接近行動実験に着手した。他個体への接近行動が被験体の選択の結果として生じたことを空間的に明確に定義するための方法としてT字型走路を作製し、ビデオカメラを真上に配してラットの行動を映像記録した。T字型走路の片端にラット用保定器に拘束した他個体を配し、もう片端にはダミーの人形を入れたラット用保定器を配し、選択行動として被験体が最初に接近するのはどちらの保定器のほうか、また続く15分間にどのような割合で両保定器に被験体が接近するかを画像解析した。さらに、被験体がそれまでに保定器における被拘束経験があるかどうかによる群分けを行い、選択行動への影響について比較した。その結果、保定器の扉を開けることによって実際に他個体の脱出を助けるという行動を示した被験体はいなかったが、接近行動についてはダミー人形入りの保定器に比べて他個体が拘束されている保定器に多く接近することが示された。ただし、被験体がそれまでに被拘束経験を有するかどうかの選択行動への影響差は検出されなかった。以上の結果より、ひとつのフィールド内に拘束されている他個体への接近という従来の実験方法とは異なる、空間的に分離した対象への選択行動として測定した今回の実験においても、他個体への接近行動は同様に生じることが明らかになった。自身の被拘束経験の有無による行動の違いは検出されなかったことから、ヒトにおける共感に相当する性質とは異なることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生理実験システムの構築と並行して行動実験の結果も報告の通り得られているため、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に行ったT字型走路を用いた他個体への接近行動実験において有益な結果が得られたため、この機序を明らかにするための実験をさらに発展させる。第一に、ヒトにおける共感に相当する接近行動であるならば、このラットの行動が1セッションのみならずさらに継続して観察されるはずであり、それだけでなくセッションを重ねるごとにこの接近行動が増加する可能性もある。セッション数を増やした実験によってその点を確認する。第二に、T字型走路における接近行動を生じさせている要素を同定するため、拘束されているラットに対する視覚・聴覚・嗅覚に関する手がかりを各モダリティーのマスキング刺激によって攪乱した場合の影響について調べる。一方、空間認知において重要な脳部位である海馬におけるホルモン調節機能を明らかにするため、前年度構築した生理実験システムを利用し、メラトニンが海馬スライス標本におけるシナプス可塑性に与える調節作用について、おもにシナプス応答の長期抑圧を用いることにより調べる。代謝型グルタミン酸受容体の活性化の程度をそのアゴニストの濃度によって操作し、各濃度のアゴニストによって異なる大きさの長期抑圧を生じさせ、メラトニンの作用を測定する。
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Causes of Carryover |
平成28年度中の実験動物の使用匹数が当初予定よりも少なかったため、飼養に必要な費用も予定より少なかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については物品費として用い、翌年度分の物品費として請求した助成金と合わせて、おもに実験動物、床敷き、固型飼料、試薬のために用いる予定である。
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Research Products
(1 results)