2017 Fiscal Year Research-status Report
ヒューマンセンシングによる障害児の認知評価と発達支援に関する実践研究
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16K04439
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Research Institution | Hijiyama University |
Principal Investigator |
吉田 弘司 比治山大学, 現代文化学部, 教授 (00243527)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 発達障害児 / 重複障害児 / 認知機能評価 / 発達支援 / ヒューマンセンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究においては,NUIと呼ばれる新しいセンサ技術を応用して,人の身体の動きや表情の変化,視線の動きなどをセンサでとらえることによって,発達障害児や重複障害児の認知機能を評価したり,発達を支援するためのアクションリサーチ(実践研究)を行っている。研究では,ゲーム用に開発された安価なセンサを用いて,四肢の運動障害や知的障害,自閉的傾向をもつ子どもであっても楽しめるゲーム的課題を開発し,子どもが遊ぶ様子を通して,その認知機能を評価できるように工夫した。2年目にあたる平成29年度においては,障害児を支援する施設等のニーズを踏まえて,精力的に多くの課題を開発した。 身体運動を使ったプログラムとしては,Microsoft社のKinectセンサを利用し,日常場面での子どもの動きを,頭部を中心に機械の目で自動記録する観察プログラムや,それを利用して視覚運動協応能力を評価したり,身体イメージや視点取得を評価するゲーム,笑顔を作り出すゲーム,対人交流を引き起こす遊びを誘発させるゲームなどを作成した。 また,Tobii社のゲーム用視線センサであるEye Tracker 4Cを用いて,肢体不自由をもつ子どもでも視線で遊べるゲームを使って,市販のおもちゃではなかなか遊ぶことのできない子どもたちに娯楽を提供するとともに,絵本やビデオを見ているときの視線を調べることで,子どもの心理的発達や知的発達の手がかりを得る試みを行った。また,言葉や文字の学習を支援するために,視線で選択することのできるおしゃべりする文字盤や,視線で文字を操作して遊ぶゲームを開発し,施設や学校等で積極的に使用してもらう試みを開始した。 また,発達障害で問題となる他者の視線や表情の認知を評価するために,仮想現実とコンピュータグラフィックスを応用した擬人化エージェント(デジタル空間で利用可能な人型のアンドロイド)の開発を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は,本研究のフィールドとなっている障害児の支援施設に加え,特別支援学校や障害児の保護者からもニーズをくみ上げながら,障害児の認知機能評価と発達支援のためのプログラムの開発を主に行った。 身体センサを使ったプログラムでは,非接触的に日常における子どもの行動を観察し,データ化するプログラム(Kinect Logger),自分の写る映像の中で身体を動かして遊ぶことによって身体イメージや視覚運動協応,外部視点の取得を評価するプログラム(風船割りゲーム,Kinectアバター),笑顔を作って遊ぶゲーム(笑顔メーター),手を振って出てくるボールをぶつけ合うことで複数の子ども同士による対人交流を引き起こすゲーム(Kinectたまたま)などを開発した。 また,視線を使って遊ぶゲームでは,言葉や文字の学習支援に対するニーズが大きかったことから,視線で選択して読み上げ可能なひらがな文字盤(あいうえお)や言葉を読み上げてくれる文字盤(あひるうさぎ),文字の書かれた積み木を視線で落として転がし並べることで言葉を完成させるゲーム(もじもじレース)などを作成し,子どもの学習支援現場とやり取りしながら改良を重ねてきた。 さらに,発達障害等で問題となる視線や表情といった非言語的な刺激を定量的に扱いながらゲーム的課題を作れないかと,仮想現実(VR)技術と3次元コンピュータグラフィックスを応用して,デジタル空間で自由に視線や表情を変えることのできる擬人化エージェント(アンドロイド)を作成し,課題で用いるための定量的実験を開始しているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度である平成30年度においては,本研究で開発した障害児の認知機能評価や発達支援を目的として開発した課題プログラム群を,フィールドでの評価を踏まえながら改善するとともに,Web上で公開するための作業を行う。実験系心理学においては,人の脳機能を調べるためのさまざまな実験課題や研究技法が開発され,多くの知見が得られてきたが,そのような技術や知見が,社会や福祉の現場において十分に活かされているとはいえない。そこで,本研究では,障害児支援の現場のニーズに根差した実践研究として,フィールドとの協働で開発した成果について,できるだけ多くを社会還元できるよう努める。
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Causes of Carryover |
残額がきわめて少額であるため,次年度予算と合わせて使用する計画である。
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