2020 Fiscal Year Annual Research Report
Discussion on the civic education in France from the 1720s to the 1820s.
Project/Area Number |
16K04505
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
越水 雄二 同志社大学, 社会学部, 准教授 (40293849)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | フランス教育史 / シャルル・ロラン / 市民教育論 / 近代公教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1720年代にフランスで公刊されたシャルル・ロランの教育論『トレテ・デ・ゼチュード』が1820年代にも参照され続けていた史実に着目し、同書の内容の検討および多様な読者による受容の解明とを通じて、その間のフランス教育思想の展開を〈市民教育論〉の形成という観点から解釈する試みである。と言うのも、1818年にアカデミー・フランセーズの懸賞論文がロラン作品の評価を論題にした際、入選作は彼を「市民の教師」と讃えていたのであった。 それが王政復古下の思想的反動を背景にした評価だと一面的に捉えられない理由は、『トレテ・デ・ゼチュード』が、18世紀中葉以降の啓蒙思想家たちからも評価されていた点、1760年代以降パリ高等法院が主導したイエズス会追放後のコレージュ改革で指針となった点、フランス革命下での公教育用教科書作成の試みでも宗教関連の内容を除いて援用された点などから、アンシァン・レジーム期の教育の在り方を近代的に変革しようとする思想と実践に対して有益な内容を備えていたと考えられるからである。 確かにロランはキリスト教信仰に篤い古典人文学者だった。しかし彼は、カトリック教会から弾圧されたジャンセニスムを奉じたゆえにパリ大学の学長を追われたにも拘わらず、フランス語教育の重要性や古代ギリシア・ローマ史の学習を通じた道徳性の涵養を新たな課題とする教育論を、国王をはじめ若き教師や家庭の父親に限らず母親へも広く伝えるためにフランス語で執筆した。彼は女子の学校教育も考慮していた。これら諸側面の受容の解明から、当時における〈市民教育論〉の形成過程を考察できよう。1830年代に文部大臣と首相を務めて公教育の普及を推進したギゾーは、ロランの教育論と歴史書を高く評価していた学者の一人である。本研究の成果は、フランス革命と第三共和政の間の市民教育論の形成を新たに捉え直す作業へ繋がるだろう。
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Research Products
(2 results)