2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K04577
|
Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
渡邉 保博 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (50141552)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 異年齢保育 / 学級 / 年齢別 / 昼間のお家 / 場 / タテ・ヨコ・ナナメ / 年齢規範 / 学校化 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.基礎的作業として, (a)異年齢の保育に関する先行研究をさらに収集し,その整理と検討を深めた。(b)集団生活・活動における「タテ・ヨコ・ナナメ」など人間関係論に関する先行研究を検討した。特に近年の発達研究が、「年齢輪切りの集団生活」や「年齢的子ども像」が持つ問題点を分析し、「発達的に異なる質をもった」「異年齢期」の子どもたちが「出会うことによって生まれる出来事」を通してあらたな「発達観を構想できないか」(川田学等)と提起している点に注目した。(c)学校・幼稚園・保育所の制度史・実践史に関する先行研究を収集し、同年齢・異年齢の保育・教育について検討を深め、異年齢保育の背景にある保育所・幼稚園という「場」に対する関係者の問題意識に注目した。つまり、異年齢保育の実践史を、単に保育の方法・形態の歴史としてとらえるのではなく、保育所・幼稚園という「場」の認識と結び付けて、その保育の目標・内容・方法(同年齢・異年齢等のクラス編成を含む)の歴史を検討すべきではないかという示唆を得ることができた。 2.(a)その点と関わって、保育所という場(「お家」「学校」「遊び場」) に関する先行研究をレビューした。関連して、「生活の場」(保育所保育指針)という規定は保育所に固有のものではなく、学校も幼稚園も「生活の場」と位置付けられてきたことも見えてきた。(b)その点で、「(もう1つの)家庭」「昼間のお家」(清水住子ほか)という保育所認識が、本研究の有力な手掛かりになるのではないかと思われたので、同氏に対する聞き取り調査と史料収集を行った。(c)保育の質向上に関する国際的な「モデル」と評価されてきたスウェーデン保育の「学校化」問題に焦点化し、先行研究をレビューした。 3.日本乳幼児教育学会第27回大会、学術集会(「「同年齢」保育・教育をちょっと疑ってみる」)等に参加し情報収集を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
学校・保育所・幼稚園の学年制と「縦割り」編成の歴史を検討するための研究視点の精査が必要であった。先行研究のレビューをとおして、異年齢・縦割り保育の試みの背景には、保育所・幼稚園を「ハウスシステム」「地域の社会的紐帯の核」「(もう1つの)家庭」「昼間のお家」としてとらえるという関係者の問題意識がみえてきた。ということは、異年齢保育の実践史を、単なる保育の方法・形態の歴史としてとらえるのではなく、保育所・幼稚園という「場」の認識と結び付けて、検討すべきではないかということになる。これは、本研究の基本的な視点であり、その妥当性を吟味するのにかなりの時間を要した。 また、保育所という場のあり方は学校との関係で問題になってきた。その点で、近年、保育の「学校化」が懸念される内外の状況に関する研究の検討も不可欠であった。欧米(特に、スウェーデン)における近年の保育を学校制度の一環に位置付ける制度改革とカリキュラム改定に関する研究が予想以上に急ピッチで集積されつつあり、昨年度からその検討に力を注いできた。そのため、研究課題に迫るうえでの基礎的研究はさらに進んだと言えるが、その半面で、異年齢保育へ転換した園への訪問と聞き取り調査について、その調査内容の再吟味を行う必要が生じ、聞き取りの実施とテープ起こし及びその内容検討がやや遅れることとなった。また、当初の研究計画について一部見直しを行う必要も出てきた。なお、学部長(平成28年度まで)としての管理業務が終了する前後に体調を崩したため、平成29年度前半の研究はリハビリに重点を置いて行わざるを得なかった。また、同年末には交通事故で受傷し、治療・リハビリに専念しなければならない期間が生じた。そのために、予定していた研究計画を大幅に変更(聞き取り調査を最小限にとどめるなど)せざるを得ず、研究の進捗に遅れが生じた。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.本研究の基礎的作業として, (a) 学校という場と対置させながら保育所という場(「お家」「学校」「遊び場」) のあり方と保育・教育目標・内容・学級編成に関する歴史的・原理的・実践史的研究の検討を継続する。(b)場のあり方と人間生活に関する人間学的検討を深める。(c)保育の「学校化」が懸念される内外の状況(特に,欧米の保育制度改革と保育カリキュラムの改定、わが国における保育所保育指針・幼稚園教育要領等の改定後の実践の実態など)について検討をさらに継続する。 2.異年齢の保育に関する先行研究をさらに収集し,その整理と検討を行うとともに、関連学会・研究会にも継続して参加し,情報収集する。 3.近年,年齢別から異年齢の保育に転換した各地の園(各調査地2園程度)と連絡を取り,研究の趣旨を説明し,了解を得られた園を訪問し, 専門的な情報提供を受けつつ資史料を収集する作業に着手する。その際、転換の事情を熟知する保育者(園長・主任クラス,各園1人程度)に聞き取りを行う。近県の1園については保育を継続的に観察し,保育の実際について専門的な情報提供を受ける。 4.「昼間のお家」「(もう1つの)家庭」という保育の「場」認識の意義を理論的に深めるとともに、この点に関わって昨年度行った聞き取り及び取集した保育実践史料の分析をおこない、その成果を論稿にまとめ、今後の異年齢保育の歴史的研究の橋頭保とする。
|
Causes of Carryover |
(理由)基礎研究の新たな進展に伴って今年度課題となっていた異年齢保育実施園への聞き取り調査内容の再吟味に着手するのが遅れたこと、また心身の不調及び交通事故による受傷に伴い治療・リハビリに専念しなければならない状況が長期間続いたことにより、予定していた聞き取り調査を十分には行うことができなかった。そのために旅費及び人件費・謝金の執行が予定額より大幅に少なくなり、50万円弱の次年度使用額が生じた。 (使用計画)調査内容の再吟味を行い、当初の研究計画に沿い未実施分も含む聞き取り調査を本格的に行うと共に、基礎研究を経て明確になりつつある研究視点(「昼間のお家」「(もう1つの)家庭」という保育の「場」認識)も生かしながら異年齢保育の実践史料の収集と分析を進めることによって、平成30年度助成金(前記の次年度使用額も含む)を適正に執行する。
|