2016 Fiscal Year Research-status Report
ICTを活用した国語力育成のための「手書き」強化の教材開発
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16K04681
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
杉崎 哲子 静岡大学, 教育学部, 教授 (30609277)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 国語力育成 / 書字支援 / ICT活用 / 教材開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、これまでに次の2つの方向から研究を進めてきた。 一つは、国語の授業における書字活動の意義の追究である。ヤンゴン日本人学校では、萩野幹夫校長、伴野みづほ教諭らの協力を得て、児童生徒や保護者、教員を対象に、書字実態の把握に必要な聞き取りやアンケート調査を計画通りに進めてきた。次に「読み」と「手書き」との関連として、先行研究の検証をふまえながら、主に板書計画やノート指導に焦点を当てて実践を行った。授業の展開については、先行研究の検証を渡緬前から継続的に進めてきたため、それを学校の年間計画に加えていただきながら、事前に準備しておいたが、目の前の子どもの実態に即して担当教員と相談をし、適宜修正を加えながら、適宜検証のうえで実施した。この実践結果を検証し、国語科の「書くこと」「読むこと」「話すこと」「聞くこと」の単元における「書字活動」に着目した授業展開の構築を進めた。これは、「伝統的な言語文化と国語の特質に関わる事項」としての書写分野の学習内容だけでなく、「文字を書くこと」を広くとらえ、その意義を教育活動に活かすものである。 もう一つは、附属特別支援学校中学部の生徒達を対象にした、継続的な書字支援である。障がいの有無に限らず、「止め」や「払い」などの終筆の区別があいまいであったり、「折れ」の部分が丸くなったりする現象は、多くの児童生徒に見受けられる。これらの改善には、点画の種類を意識した運筆指導が必要であると考えて実践を行った。また、昨今はiPadの使用に伴う新たな課題として、手首を浮かせて書く現象も見られるため、掌そのものの構え方と筆圧のかけ方についての指導に必要性が明確になった。 今後は、さらに本格的に筆圧調整確認機能を搭載した機器を使った調査を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヤンゴン日本人学校での実践については、特に手指の巧緻性が未発達な時期の書字指導についての検証を重点的に行いたいと考えたため、訪緬前からメール等で入念に打ち合わせをしてアンケート調査や画像で執筆状況の把握や執筆指導の重点項目の確認などを進めてきた。こうして準備を入念に行い、入学当初から実践研究に着手できたため、国語の授業実践における書字活動に活かすことができた。当初の計画よりも児童の書字実態調査が順調に進んだため、この検証をふまえて、次の段階である筆圧測定調査を伴う調査研究へと進めることが可能になった。 そこで、本研究において大きな意味を持ってくるデータ収集の蓄積をできるだけ早くから開始したいと考え、当初の予定よりも早めに筆圧測定機器を準備した。本学教育学部附属特別支援学校中学部の生徒に対する書字支援の折に、言語化するなどの工夫に加え、試みにこの筆圧測定器を使って筆圧を数値やグラフで提示することにした。対象の生徒には、iPadを使用する際、画面を撫でるような筆圧をかけない持ち方や、手の甲を反らせる持ち方など、従前にはなかった新たな問題が確認された。 支援の結果、数値目標(折れ線グラフの高さ)を確かにして適切に筆圧を加えられるようになったため、「筆圧の可視化」の導入が極めて有効であったと考えられる。筆圧の可視化が有効であった。このように、ICT化促進を追い風と考え、積極的に活用しながら効果的に手書き力を強化するという逆転の発想の指導法が構築可能であることが明確になったことから、おおむね順調に進捗していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度以降は、主として書字の際に筆記具を持つことへの負担感を取り除くための方策を考えていく。いくら書字活動が総合的な国語力の定着に有効であっても、文字を書く度に手指が痛かったり疲れたりするといった負担感があると、その学習自体が苦痛になるからである。これについては、既に筆記具の特性が執筆法に影響することを明らかにしているため、筆記具についてと持ち方についての2方向から検証を進めていく。 多様な筆記具に着目した調査であるが、具体的には、既存の文具だけでなくiPadやパソコン、スマートフォンを利用する場合も加えることにする。この際、アンケートに加え、筆圧測定器を用いた調査も本格的にスタートする。その分析結果をもとにして、持ち方による把持状況の違いや手指の使い方や筆圧の加え方についても分析を進め、手指の動作そのものを見直す。子どもたちの発達段階に応じた筆記具選びや手指の構え方の指導の必要性を提示したいと考えている。 一方で、これらの検証結果をもとに、「望ましい持ち方」の定着も意識し、「手書き」強化の教具として有効なICD機器への入力ペンや入力時の手指の体勢の条件を明確にしていく。この時、手指の動かし方に関しては、リハビリセンターに所属の研究者にも助言をいただき、モニター調査なども行っていく。 「文字を手書きすること」の意義については、心理面、脳科学の見地からの助言を仰ぐ。その結果をもとにして、ヤンゴン日本人学校等において「手書き」を活用した実践を行い、検証を深めていく。特別支援学校においても、引き続き書字支援を実施していく予定である。「読むこと」や「話すこと」、「聞くこと」と「手書き」との関連について検証し、書字の必然性を設定し書字意欲を引き出す効果的な「手書き」強化の教材開発を目指す。
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Causes of Carryover |
申請時の計画通りに3カ年で進めているため、次年度の使用額を用意してある。また、できるだけ早くから筆圧測定装置を使った調査を開始したいと考えていたところ、児童生徒の書字の実態調査や先行研究の検証が順調に進んだため、前倒し請求をして、筆圧測定機器の購入に充てる経費の一部を用意した。科学的なデータの収集や分析の蓄積は、本研究において大きな意味を持っている。 また、H28年度の訪緬で同行を依頼していた研究協力者が学内業務の都合で出かけられなかったため、その旅費分を機器購入の多くに充てた。その装置は、データ収集やデータ処理が容易に行えるよう考案されているため、データ収集や処理に関連した謝金の減額が見込まれ、今後の研究執行の上でも順当な判断であると考えた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後は、この度購入した機器を使った筆圧測定を本格的に行うため、データを収集・分析の蓄積を行う際に、調査協力者やデータ処理者へのへの謝金が必要となる。必要に応じて把持圧も測定し、「望ましい持ち方」の定着に有効な入力ペンの条件を明確にする。この時、書字動作を3次元で撮影するということになれば、撮影に対する協力体制も必要になる。更には、適切な筆圧を光や音で知らせる装置の購入を予定している。 実践的な検証では、ヤンゴン日本人学校等における実践のための渡航費や宿泊費等と、リハビリセンターや心理面、脳科学の見地から専門の研究者の助言を受けたり文献を調査しに出かけたりするための旅費等についても、準備して取り組んでいる。
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