2017 Fiscal Year Research-status Report
スピン偏極STMによる磁性半導体の磁性発現機構の解明と磁性ナノ構造作製への応用
Project/Area Number |
16K04874
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
金澤 研 筑波大学, 数理物質系, 助教 (60455920)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 磁性半導体 / スピントロニクス / 走査プローブ顕微鏡 / 表面・界面物性 / 分子線エピタキシー法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、半導体スピントロニクスにおけるスピン流注入源等への応用が期待される希薄磁性半導体、主に分子線エピタキシー法によって作製したII-VI族半導体ZnTeにCr、Fe、Mn等の磁性元素をドープした系を対象として、スピン偏極走査トンネル顕微鏡 (SP-STM) を用いて磁性ドーパント周りの局所的なスピン偏極状態を原子スケールで観察することで、その磁気特性の起源を明らかにすることを目的として研究を行っている 昨年度までに、ZnTe(110)劈開表面上に電子ビーム蒸着法でCr原子を真空蒸着する際の蒸着条件の最適化を行い、また、STM探針によってCr原子が表面上を移動しCrペアを形成させることに成功している。STM像においてその明るさは二つのCr原子が隣接する方位および距離によって変化することが観察されている。 それを踏まえ、二年目に当たる平成29年度では、具体的なSP-STMの実現に向けた取り組みとして、磁性探針の作製並びに磁場中STMの観察を試みた。磁性探針としてはCr細線を電界研磨したものを用いることとし、電解研磨等の探針作製の条件の最適化を行い先端がきわめて鋭利な探針を作製することに成功した。 また、筑波大学重川武内研究室にあるomicron社製の磁場印加型低温STM (TESLA) を用い、約8Kにおいて、ZnTe表面上にCrを吸着した試料に対し、STM観察を行うことに成功した。 これらの結果から、さらに、今後、SP-STMにより、孤立および隣接吸着した磁性ドーパント周りの局所的なスピン偏極状態を原子スケールで観察することで、その磁気特性の起源を明らかにすることができると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目に当たる平成29年度は、主に、具体的なSP-STMの実現に向けた取り組みとして磁性探針の作製並びに磁場中STMの観察を試みた。磁性探針としては主にCr細線を電界研磨したものを用いることとし、電解研磨等の探針作製の条件の最適化を行い先端がきわめて鋭利な探針を作製することに成功した。また、筑波大学重川・武内研究室が所有するomicron社製の磁場印加型低温STMを用い、ZnTe(110)表面上にCrを吸着した試料に対し、約8Kという低温条件下で原子分解能STM観察を行うことに成功した。さらに、平成28年度に購入した超高真空金属蒸着用高温エバポレータの動作を確認し、磁性金属蒸着探針の作製条件の確立を進めた。 それと並行して、低次元強磁性ナノ構造の作製に向けた研究を進めた。特にZnTe(110)表面を舞台に、昨年度から継続して行っているCrに加え、Mnの真空蒸着行い、STMによる原子ペア配列構造の観察を行い、それらの電子状態を明らかにすることを試みている。 これらの現状および予備実験を踏まえ、さらに最終年度に当たる平成30年度に、磁場印加型低温STMにおいて磁性探針を用いたSP-STMを行うことで、このような孤立および隣接吸着した磁性ドーパント周りの局所的なスピン偏極状態を実際に原子スケールで観察することで、その磁気特性の起源を明らかにすることができると考えられる。 このことから当初の目的をほぼ達成できており当課題は概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題の目的は、スピン偏極STM (SP-STM) によって希薄磁性半導体 (DMS) 中の磁性ドーパント周りの電子状態を詳細に測定することで未だ明らかになっていないII-VI族DMSの磁性発現のメカニズムを解明し強磁性ナノ構造作製へと応用することである。 これまで、非磁性タングステン探針を用いた低温STM観察によって、ZnTe(110)劈開表面に真空蒸着した単一Crおよび二原子隣接Crが形成する不純物準位およびそれらの間に働く強磁性相互作用について多くのことが明らかになってきた。また平成29年度には、SP-STMのスピン偏極探針の有力な候補として挙げられるCr電解研磨探針の作製条件の最適化等を行い、さらに磁場印加型低温STMによって本研究の主たる対象であるZnTe(110)表面およびその表面上に吸着したCr原子の観察が可能であることを確認した。 これを踏まえ、最終年度に当たる平成30年度には磁性探針を用いたSP-STMによる観察を本格的に進める。具体的には先行研究の実績があるCr細線を加工することによって作製されるCr探針に加え、タングステン細線に本課題で購入した超高真空金属蒸着用高温エバポレータを用いることによって作製される磁性金属蒸着探針の作製条件を確立し、実際にSP-STM観察を行う。このような孤立および隣接吸着した磁性ドーパント周りの局所的なスピン偏極状態を実際に原子スケールで観察することで、磁性半導体に発現する磁気特性の起源に関する重要な知見が得られると考えられる。 また、半導体ZnTe表面に吸着させた磁性元素(Mn.Cr,Fe等)に対し、STM原子操作によって原子配列を制御することで強磁性ナノ構造を人為的に作製し、その物性を評価することを目標とした研究も併せて進めていく予定である。
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