2018 Fiscal Year Research-status Report
ユークリッド空間のコンパクト部分多様体のポテンシャルとエネルギーの研究
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16K05136
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
今井 淳 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (70221132)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ベータ関数 / Rieszポテンシャル / 留数 / 結び目 / 自己インダクタンス |
Outline of Annual Research Achievements |
Mをユークリッド空間のコンパクト部分多様体とする。現時点では技術的な理由から、Mは、結び目、曲面などの閉部分多様体および全空間と同じ次元のものに限ることとする。zを複素数として、M×M上距離のz乗の積分を考える。これはzの実部が小さいと発散してしまうが、zの実部が大きいところで収束し、zの正則関数になる。そこで解析接続により定義域を複素平面全体に拡張すると、1位の極のみを持つ有理型関数が得られることが分かる。これを多様体MのBrylinskiベータ関数という。この留数、およびこの関数の値(zが極の場合は、発散を留数を用いて正則化した値)として、多様体Mの幾何学的な量が得られる。これが本研究の主要な研究対象である。いくつかの場合には、具体的に求められている。今年度の実績は以下の通り。 (1) Mがm次元閉部分多様体で、次元mが偶数とすると、zが-2mのときのBrylinskiベータ関数の留数は共形不変であることを示した(未発表)。mが2の場合は曲面のWillmore汎関数になることから、一般に幾何学的に意味のある量であることが期待できる。偶数次元の多様体に対して定義できる共形不変な量で、mが2のときにはWillmore汎関数になるものとして、他にQ-曲率の理論からくる Graham-Witten による量が知られている。これとBrylinskiベータ関数の留数を比較したが、まだ未完成・未発表である。(2) 電磁気学の相互インダクタンスを与える公式としてNeumannの公式とWeberの公式が知られているが、いずれも二つの回路が一致するとすると発散する。この二つの式に上述の正則化の方法を適用したところ、回路の長さの差が出ることが分かった。またこれらから上と同様に有理型関数が得られるので、それらの留数を求めた。この結果は現在投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は多様体のBrylinskiベータ関数の留数の性質の研究、および知られている量との比較(同じかどうか、一方から他方がでるかの考察)を行った。上で述べたように、偶数次元閉部分多様体(次元をmとする)のBrylinskiベータ関数の、zが-2m、つまり次元のマイナス2倍のときの留数が共形不変であることを示したことが一番大きな進展である。一方、他の量との比較であるが、まず多様体が局所的に多項式のグラフで与えられていると仮定して、各々の留数を表すのに必要な微分の階数を調べ、他の量のそれとの比較を行っている。これは現在も進行中である。また、上述の(2)の自己インダクタンスのように、申請書の研究計画のときには思いつかなかった問題もできたので、研究自体は質・量ともに順調に進んでいる。 一方、予算の使用状況については、夏休みに健康上の問題が発覚したこと、および平成30年度に教室のコース長となったことにより、そうでなければ実行していたであろう海外出張および海外研究者との共同研究のための招聘を断念したことが主要因となり、予定より大幅に遅れてしまった。このためやむなく期間延長を申請することとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
数学的な面について。多様体のBrylinskiベータ関数の留数の研究を引き続き行う。(1) Mが4次元閉部分多様体のとき、留数とGraham-Wittenによる量の関係。必要な微分の階数が異なることから、この二つの量は異なるのではないかと予想している。(2) Mの次元が全空間と同じ場合、つまりMがコンパクトボディの場合、留数と内在的体積の関係を調べ、留数から内在的体積が得られるか、という問題を考える。次元が2,3の場合には肯定的、次元が4の場合は、上の命題は成立しないが、その局所版といえる命題が成立し、次元が更に上がると成立しないであろうと予想している。(3) Mが結び目の場合。可積分系で扱う渦糸方程式という微分方程式の保存量は、結び目のBrylinskiベータ関数の留数と非常に近いが、同じではない。そこで、Brylinskiベータ関数を補正して、その留数として渦糸方程式の保存量が得られるかどうかを調べる。補正は具体的には以下のようにする。Brylinskiベータ関数の被積分関数である二点間の距離のz乗に、この二点で決まる何等かの関数をかけたものを新たな被積分関数とするものを考える。これを冪zの関数と思い、これを解析接続して得られる有理型関数を考える。 予算について。海外出張(現時点で使用する予定のものは、9月にドイツJenaで開催される凸幾何関係の研究集会)、および海外共同研究者への訪問または招聘、国内出張旅費が主要なものとなる予定である。
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Causes of Carryover |
(理由)2018年夏休みに健康上の問題が発覚したこと、および平成30年度に教室のコース長となったことにより、そうでなければ実行していたであろう海外出張および海外研究者との共同研究のための招聘を断念したことが主要因となり、予算の使用状況が予定より大幅に遅れてしまった。 (使用計画)海外・国内出張および海外共同研究者の招聘という旅費を主に考えている。現時点で予定している海外出張のうち、科研費を使用するものは、9月のドイツ Jena での凸幾何の研究集会である。海外共同研究者がフランスのディジョンおよびスペインのバルセロナにいるので、校務との兼ね合いを考えながら、こちらからの出張または招聘をしたいと考えている。また、金額に余裕がある場合はノート型パソコンを購入する。
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Remarks |
英語論文の著者名のO'Hara(大原)は今井の旧姓です。
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Research Products
(5 results)