2016 Fiscal Year Research-status Report
変形量子化で構成される非可換ケーラー多様体上のゲージ理論の解明
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16K05138
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
佐古 彰史 東京理科大学, 理学部第二部数学科, 准教授 (00424200)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長谷部 一気 仙台高等専門学校, 専攻科, 講師 (60435469)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 非可換幾何 / 変形量子化 / ケーラー多様体 / 場の理論 / ゲージ理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
変形量子化を用いた非可換ケーラー多様体の場の理論の解明が目的の本研究である。当初の計画では28年度に、「一般の非可換ケーラー多様体のFock表現の構築」と、「ゲージ理論を中心とした場の理論の構成とソリトンの解明」を進める計画であった。一般の非可換ケーラー多様体のFock表現は、複素座標とケーラーポテンシャルの複素座標による微分を用いて生成消滅作用素を構成することで局所的に構成することに成功し、またその貼り合わせについても明らかになった。その結果は」Journal of Mathematical Physics vol.57, 093501 (2016) 093501-1-20などに掲載され、さらに国際会議XVIIIth International Conference Geometry, Integrability and Quantization等で発表されている。もうひとつのテーマであった「ゲージ理論を中心とした場の理論の構成とソリトンの解明」については、当面の問題点があきらかになり、その対処法についての議論も進んだが、現在は他のテーマにより力点を置いている。一つは、当初の計画ではずっと先のテーマであった量子論的な研究が先に結果が出始めた。スカラー場の3点相互作用を持つ非可換複素平面(1,2,3次元)上の場の理論を行列模型として定式化し、この量子論が完全に解けるという結果が出た。これについては現在、投稿審査中である。 また、別のテーマでは非可換ケーラー多様体の中でも特に性質の良いものとして、局所対称性を持つものについて詳しくしらべいくつかの多様体に対して顕にスター積を導出するなどの成果が出ている。これにかんしてもJournal of Geometry and Physics, Vol. 114, (2017) 554-569に出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の28年度の計画での実施項目である研究テーマの、「一般の非可換ケーラー多様体のFock表現の構築」と「ゲージ理論を中心とした場の理論の構成とソリトンの解明」のうち前者は完全に解明され、今後のあらゆる研究テーマに応用していくことが可能である。この内容で2本の原著論文が出版され、1本のプロシーディングが出版されている。 もうひとつのテーマであった「ゲージ理論を中心とした場の理論の構成とソリトンの解明」については、現在までの研究から、非可換等質ケーラー多様体でのゲージ理論の構造については明らかになっている。特にソリトンについては通常の多様体の場合と大きく異なっていることが判明し、従来の研究で用いてきたような可換空間におけるソリトン解からの変形の方法が簡単には適用されない問題点がわかってきた。ウィーン大学のHarald GrosseやHarold Steinackerとの議論からいくつかの打開策が提案され、最も理解が進んでいるCP Nにおけるモノポール解,インスタントン解について研究が進行中である。 現在はそれよりもずっと後に行う予定であったテーマである「場の理論の量子論的な定式化」を優先的かつ重点的に行っている。これは、28年度に行ったウィーン大学での在外研究中に、地理的な優位性を生かして、ウィーン大学のHarald Grosse氏やミュンヘン、ウィルヘルム大のRaimar Wulkenhaar氏との共同研究をすることが優先事項と判断したためで、実際に28年度前期に大きな前進があった。まだ出版には至っていないが、2本の論文が準備されており、そういう意味では研究の順序を入れ替えて成功したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度中に完成した「非可換ケーラー多様体のFock表現」を用い、その上でのゲージ理論の構築とSeiberg-Witten写像を通した江口―ハンソン多様体との関係の解明を29年度中に行う。また、 28年にスタートした「非可換ケーラー多様体上のゲージ理論におけるソリトンの解明」の研究は、長期的な問題であるため、現在最も解析が進んでいるCP Nを手始めに次により一般のグラスマン多様体、局所対称空間、一般のケーラー多様体へと29年度以降に順次拡張していく予定である。研究計画の中にある「位相的場の理論の分配関数としての位相不変量の構成」に関しては、現在進行中の場の量子論の行列模型としての定式化を援用することで,30年度中を目処にCP NやCH Nの場合について計算する。また、任意のジーナスの非可換リーマン面に関しても評価可能であることが予想される。これは2次元ではリーマン曲率テンソルが事実上1成分であることから得られる予想であり、スター積についても具体的に曲率を用いて書けるという28年度に得られた結果を用いることができる。それについても同様に計算をすすめる。また,スカラー場の場合の一般の非可換ケーラー多様体への一般化(30年度)とゲージ理論への一般化(31,32年度)を順次すすめる。 これらの物理的応用として、トポロジカル絶縁体とその表面電流との関係の解明がある。物性物理学の知識と経験不足を補うため、仙台高専の長谷部氏に協力を依頼し、現在まで情報交換と研究討議を重ね、共同研究を行う準備が進んでいる。30年度中に最も簡単な量子ホール効果の場合にトポロジカル絶縁体の表面電流の関係を解明していく。
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Causes of Carryover |
今年度、分担研究者である仙台高専の長谷部氏と仙台で研究打ち合わせを行う予定が、双方のスケジュールが合わずに実施することが出来なかったことが原因である。代わりに大阪大学での日本物理学会年会の際に短時間打ち合わせを行ったが、不十分であるので、現在再度の研究打ち合わせのための日程を調整中である。今年度の適切な時期に研究打ち合わせを行う予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の適切な時期に研究打ち合わせを行う予定である。しかし講義実施期間中は、自分も分担研究者である長谷部氏も十分な時間をとることができない。従って、夏季休業中などを念頭に調整を行い今年度に行う予定であった打ち合わせも併せて1週間程度の長期間の打ち合わせを行う計画である。
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