2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K05232
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
川下 美潮 広島大学, 理学研究科, 教授 (80214633)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 時間依存型逆問題 / 境界値逆問題 / 波源推定逆問題 / 複数種の波 / 囲い込み法 |
Outline of Annual Research Achievements |
境界値逆問題の解析では、空洞や介在物の情報を引き出すために用いる「指示関数」と呼ばれる関数を導入し、この「指示関数」から如何にして空洞や介在物までの距離などの幾何学的な量を取り出すことができるかについて調べることが重要である。この作業の過程で、レゾルベントやその積分核である基本解の漸近挙動が必要になる。これまでの代表者らによる研究で、熱方程式の境界値逆問題に対しては、「最初に内部の境界にぶつかる点までの最短の長さ」を計測しているという解釈が成り立つことが明らかになってきた。 この研究では、速度の異なる複数種類の波が存在する媒質内における空洞や波の発生源をとらえる逆問題を、レゾルベントの漸近解析を援用した「囲い込み法」により考察し、この場合も上記の解釈が成り立つかどうかについて調べることが主な目標である。複数種類の波が存在する状況の一つとして次の場合が考えられる。 (A) 2層媒質問題のように、接合境界があることにより異なる伝播速度をもつ波が現れる。 平成29年度は、前年度に引き続き、上記(A)にあたる層状媒質のときに研究を進めた。前年度で全反射現象が起きない場合には対応する基本解の漸近挙動を導くことがほぼ終わっていた。この得られた漸近挙動からこの問題に対する「最初に接合面下部の境界にぶつかる点までの最短の長さ」を導き、全反射が起きないという限定的な状況であるが、この場合に逆問題まで完成させたのが今年度の主な実績である。通常の屈折の法則に従って最短距離が決まること、及びその最小値が指示関数から得られるというのがその知見である。この結果を論文にまとめ、投稿を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度終わりの段階で、当初に予想していた研究計画とは若干異なってきたが、研究計画全体から見れば、順調に推移していた。今年度もその流れに沿って研究を続けた結果、全反射が起きない場合には最終的な結果までまとめることができた。このように今年度も順調に進んだと考えている。これまでこの方面の研究によれば状況設定は異なるが、どの場合も「最初に内部の境界にぶつかる点までの最短の長さ」を計測しているという解釈が成り立つことがわかっている。当初計画では、必要となるレゾルベントの漸近挙動をすべての場合に先に調べておき、その結果を用いてこの問題における上記の「最短の長さ」について考える予定であった。しかし、本研究の最終目標は「最短の長さ」がどうして分かるのかという構造について明らかにすることにある。そこで、全反射が起きない場合のみに限定し、研究を先に進め、この場合には最終的な結果までたどり着いた。次の問題は全反射が起きる場合の基本解(レゾルベントの積分核)の漸近挙動についての考察であるが、この点についても若干ではあるが、考察が進んでいる。これらの状況から概ね順調に研究が進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度における研究により、全反射が起きない場合には最終的な結論が得られ、それを研究論文にまとめ出版する作業を行うことができた。次は当初の大きな研究方針に沿って、全反射現象が起こる場合の取り扱いについての考察を行うことである。研究方法としてはこれまでの方針通り、 ①層状媒質に対する基本解で、今後の研究に必要となる表示を調べ、その漸近挙動を導く。 ②無限回観測、または一回観測(I)の場合に、この問題に対する「最初に接合面下部の境界にぶつかる点までの最短の長さ」を導く。 の順に行う。予備的な考察は終わっており、最短を与える点のまわりでの基本解の漸近挙動が通常の場合とは異なることが分かってきている。この考察を精査し、最終的な結論を目指して解析を続け、この場合の最短の長さが決まる理由・構造を解明したい。
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Causes of Carryover |
現在使用中のポータブル計算機の更新を考えていたが、現在使用中のものが思いの外調子が良かったので、無理に更新をせず、平成30年度に発売される機種で更新を行うことにした。そのため25万円程度の未使用分が生じた。さらに、年度末に出張する計画を立てていたが、学内業務と重なったため、出張を延期したことも重なり、34万円強という多くの未使用額が生じた。平成30年度には計算機の更新は必須で、現在機種選定中である。さらに、8月には特に予定していなかった国際研究集会の企画が持ち上がっており、これらの原資として未使用分を充当することを考えている。
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