2016 Fiscal Year Research-status Report
情報科学におけるエントロピー及び不等式に関する基礎研究
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16K05257
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
古市 茂 日本大学, 文理学部, 教授 (50299327)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | エントロピー / ダイヴァージェンス / 作用素不等式 / Young不等式 / 作用素平均 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目的の1つ目であるSymmmetric divergence measuresに関連した結果としては,2つの確率分布の差の絶対値の総和の上界に関して従来の結果よりもタイトな上界の導出に成功した.これは,Tsallisエントロピーに付随するパラメータを伴った一般化であり,パラメータが1より大きいときに従来の結果よりもタイトな結果を示すことが出来た.これは,2015年にI.SasonがIEEE Transaction on Information theoryに発表した論文中にある1つの不等式についてパラメータ拡張したことになる。本結果は,2016年7月にベルギー・ヘントで行われた国際会議MaxEnt2016で発表の後,9月に立命館大学で行われた国際会議でも講演し,Journal of Physics:Conference Seriesから出版予定である。この論文は,K.Yanagi and K.Kuriyamaとの共著である。本論文中では,可換の場合のパラメータ拡張について論じた後に,非可換の場合についても量子Jeffrey divergenceに対して,トレース距離を用いた不等式を示すことに成功ている。 次に,2つ目の目的であるYoungの逆不等式の作用素版の更なる改善として,区間を2のべき乗に区分けしていくことにより,より精密に上界や下界を求めることが出来た。またJ. Zhao and J. Wuの結果を利用した別の切り口からの改善にも成功した。これらは,M.B.Ghaemi and N.Gharakhanluとの共同研究である.これらの結果については,それぞれ国際ジャーナル Journal of Mathematical InequalitiesとBulletin of the Malaysian Mathematical Sciences Societyから出版予定である。 また,V.Kaleibaryらとの共同研究として有名なGolden-Thompson型の不等式をオルソンオーダまで条件を拡張した上で示すことに成功した。これは従来の結果を改善するものであり,論文として現在投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述したように,本研究課題に最も即した研究内容としてSymmmetric divergence measuresに関連した結果がえられたことについてはおおむね満足している。これは,ほぼ20年来の共同研究者である柳教授と栗山教授のサポートも大きかったと思われる。 また,量子物理や統計力学など古くから研究されており量子情報科学の分野においても数学者によって近年研究対象とされることの多いGolden-Thompson型の逆不等式の成果を得たことも本研究課題の目的からは満足できるものである。ただし,これについては,現在投稿中の論文であることを注記しておきたい。 そして,情報科学の発展に直ちに寄与するとは断言できないがYoungの不等式に係る成果を2件,論文発表できたことも良かった点であろう。ここで得られた手法を活かして平成29年度中にエントロピーに関連する精緻な見積の研究を実施する予定である。 一方で,本研究課題の研究目的として当初考えていた,Heron meanに関するユニタリ不変ノルム不等式の導出には至らなかった.一般化エントロピーのGelfand-Yaglom-Perezの定理についても成果を得るには至らなかった。文献を調べたり,セミナーなどで知り合いからの情報を得たりしたのだが,うまく行かなかった.これらは反省点であるであるが, これらの課題の遂行がかなり困難なものであることが分かってきたことは前進であり,平成29年度以降はこれらの課題から離れて別の研究課題に時間を割きたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では,申請者がこれまでに行ってきた作用素不等式に関する研究を行う.特に,算術平均・幾何平均の不等式の一般化でもあるYoungの不等式の改良やその逆不等式の導出そしてさらなる一般化を行うことが主目的である.この結果を,2017年5月に開催される国際会議The Eighth International Conference on Informationにて発表する予定である. また,これまで研究代表者が得てきたTsallis relative operator entropyに関する成果と平成29年度中に得られる成果についても,2017年6月に開催される国際会議The 6th International Conference on Matrix Analysis and Applications (ICMAA 2017)で発表する予定である。特にこのテーマについては,6月以降も期間が残されており行うべき研究内容を持ち合わせているため今年度の研究課題の主目的となる。情報科学のなかでも情報理論においては,情報量の上界や下界の精緻な見積が重要課題となるため,作用素エントロピーという数学的な研究対象にあってもこれらの考え方に即してTsallis relative operator entropyの上界と下界を様々な角度から精緻に見積もっていき比較検証を行っていく予定である。 さらに,Tsallis relative operator entropyは正作用素に対して定義されるがこの定義を実部のみが正となる作用素,つまりAccretive operatorに対して拡張した研究を行っていく予定でもある。
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Causes of Carryover |
平成28年度から学科主任を任されており,想像以上に後学期に多忙となり予定していた国内学会に出席できなくなったため約10万円弱の残金が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度も学科主任を任されており,昨年度の経験から出張できる時期や回数が限定されると思われる。8月中に開催される国際会議にて発表するか或いは,最近高騰している雑誌掲載料に充てるかをのどちらかの使用を考えている。予算内に収まれば両方に利用できればと考えている。
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