2016 Fiscal Year Research-status Report
シンクロロック法を用いた二次元フーリエ分光装置の開発と多粒子間相互作用の研究
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16K05399
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Research Institution | Joetsu University of Education |
Principal Investigator |
小川 佳宏 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (50372462)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 二次元フーリエ分光 / 半導体量子井戸 / 四光波混合 |
Outline of Annual Research Achievements |
二次元NMR法のアナロジーとして近年盛んに研究されている二次元フーリエ分光法は,優れた測定手法にも関わらず,その実験の難しさから物性領域においてそれほど研究が行われていない。本研究の目的は,シンクロロック法を用いることで,容易に高精度で行える二次元フーリエ分光測定法を確立することである。 二次元フーリエ分光測定においては,相対位相の決まった光パルス列を試料に照射する。今回用いる方法では,それぞれの光パルスに音響光学素子(AOM)を用いて周波数ラベリングを行う。干渉計に対してフィードバック制御を行わないと,干渉計は時間とともに揺れ,光パルス間の相対位相が変化することとなる。ここでは,光パルス列の一部を分光器に入射し干渉信号を得ることで、干渉計の揺れを知ることができる。これをロックインアンプの参照信号として用いる。信号光に対して参照光を干渉させロックイン検出する際に,予め得ている参照信号を用いることで,干渉計の揺れの影響を受けずに,信号光の電場の強度と位相をロックインアンプで直接測定することができるのである。 本年度は,シンクロロック法を用いた二次元フーリエ分光測定の検証実験を行い,この手法でどの程度まで信頼できるデータが得られるのか実証した。試料としてGaAs量子井戸を用い,多励起子間に働く電子相関について研究を行った。この結果,通常の(一次元の)分光法では測定することが困難な2つの励起子対の反結合状態の観測に成功した。二次元フーリエ分光においてはエネルギーの近い2つの相互作用を,二次元マップ上の異なるピークとして分離できるためである。また,反結合状態のエネルギーが比較的大きかったことから,量子井戸中で井戸の厚さのゆらぎに起因する量子閉じ込め状態が実現していると考えられる。 以上の成果を論文にまとめ,投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の平成28年度の研究内容は,「試料としてGaAs半導体量子井戸を用い,重い正孔励起子と軽い正孔励起子間の多体相互作用を二次元フーリエ分光法により測定する。バックグラウンドやアーティファクトに埋もれずにどの程度まで信頼できるデータが得られるか検証する。」としていた。干渉計のゆらぎを反映した参照信号を用いることで,干渉計のゆらぎの影響を受けずに,光電場の強度と位相を求めることができる。この測定方法の安定性を検証するために,連続実験を行った所,3週間に渡り安定して測定を続けることができることがわかった。これは,一連の実験を行うのに十分な期間である。また,GaAs半導体量子井戸を用いて二次元フーリエ分光測定を行った所,スペクトルの解析を行うのに十分なS/N比で測定できることがわかった。ただし,5次の信号を測定する時には,さらにS/N比を向上させる必要があることもわかった。また,GaAs半導体量子井戸において2つの励起子の反結合状態を観測することができた。以上より,今年度の課題はおおむね達成しているといえるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進策としては,平成28年度に開発した二次元フーリエ分光測定法を用いて,初めにGaAs多重量子井戸における励起子―フォノン相互作用についての研究を進め,次に,半導体量子ドットにおける励起子間の多体相互作用について研究を進めていく。 また,高次の多体相互作用を測定するために,現在よりも1桁程度のS/N比の向上を目指す。
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