2020 Fiscal Year Research-status Report
マルチフェロイック物質の磁化プラトーに対する不純部効果
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16K05420
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
黒江 晴彦 上智大学, 理工学部, 准教授 (40296885)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 反強磁性スピン鎖 / 不純物効果 / 磁化プラトー / 超強磁場物性 / ファラデー回転法 / パルス強磁場 |
Outline of Annual Research Achievements |
歪んだ四面体磁性鎖を持つマルチフェロイック物質 Cu3Mo2O9 の強磁場物性や置換効果を研究している。連続固相反応法で育成した高品質な単結晶試料を用いて,磁性や誘電性の測定において良好な結果を得ている。特に,不純物置換試料を育成する際には,固相反応をベースとしたこの方法には,仕込み量と結晶の組成が対応するメリットがある。 しかし,この方法で作った結晶には,直径数マイクロメートル~数十マイクロメートルの小さな穴が開くため,光学測定が困難なことが2017度までの研究で分かっている。この小さな穴は高温・高圧下でアニール処理することでは除去しきれない。一方,セルフフラックス法を用いて液相から育成した単結晶試料には,このような小さな穴が開かない。そこで2018年度の研究は,この方法を用いて育成した単結晶試料の,ファラデー回転法による超強磁場中の磁化測定を中心に行った。 東京大学物性研究所国際超強磁場研究施設の横型一巻きコイルを用いて, 168 T までの磁場を印加し,ファラデー回転法を用いて磁化過程を測定した。しかし,観測された磁化過程は,Bonner-Fisher で予言されるような急激に上昇して飽和磁場に近づくものではなく,大枠は Brillouin 関数で示され,低温で磁化プラトーが生じる数十 T の領域に小さなディップが観測されただけで,残念ながら,試料の冷却に問題があったと判断した。サンプルが小さく,余分な所をマスクしたのだが,そのマスクに使った素材が強磁場印加時に絶縁破壊を起こし,渦電流が発熱の元になったと判断した。 2019~2020年度には,セルフフラックス法を使った単結晶育成ができるように作業をはじめ,当初計画では想定になかった電気炉や,熱間等方加圧装置の再稼働の準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初予定では研究が終わっているはずであったが,一つ目のマイルストーンとして設定した純粋な試料での磁化測定も終わっていない段階なので「遅れている」と判断している。サンプル育成・評価・加工・研磨に苦労を重ねているが,研究室移転に伴う装置の不調や新型コロナウィルスの感染拡大による研究室閉鎖等で,研究が思うように進んでいない。 本研究には,不純物置換試料での強磁場物性が目標として含まれている。現在問題となっているのは,強磁場物性を行うための良質の単結晶が必要となるものの,そのような試料の結晶内には小さな穴が存在するために,光学測定を行う事ができないというジレンマである。このジレンマは「セルフフラックス法で不純物置換系の単結晶試料を育成する」ことによって解消されるが,セルフフラックス法での不純物置換系の育成は一般的に難しく,特に不純物置換系では,仕込み量と結晶内の組成の間には食い違いがあるのが一般的で,組成の同定には大変な手間がかかる。 幸い,連続固相反応法で育成した試料を用いて研究した,不純物置換量による物性変化のデータが多数あるので,これらと比較したうえで,セルフフラックス法で育成した試料での物性評価を行うことが,クリアすべき課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究年度最終年にも関わらず,試料の育成作業がまだ必要であることは大変に残念な事である。昨年度に再立ち上げをした電気炉や熱間等方加圧装置を調整しながら,せめて純粋な試料の磁化曲線が測定できるよう,マシンタイムに合わせて試料を加工する。
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Causes of Carryover |
当初計画にあった強磁場中の実験が不調で,サンプル育成が必要となった。その準備に SQUID 磁束計を用いた磁化測定が含まれていたが,実施することができなかった。SQUID 磁束計を動作させるには,大量の液体ヘリウムが必要で,200リットル分の予算である,約 55 万円を計上していたため,次年度使用額が発生した。 今年度も試料を育成して SQUID 磁束計で評価することが必要なので,そのための液体ヘリウムの購入費用として,この次年度使用額を利用する予定でいる。
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