2016 Fiscal Year Research-status Report
パウリ常磁性、臨界揺らぎ、多バンド性がもたらす磁場下の超伝導理論
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16K05444
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 隆介 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60221751)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 超伝導 / 鉄系超伝導体 / 超伝導揺らぎ / パウリ常磁性 / BCS-BECクロスオーバー |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究内容は、電子間引力の弱い系における超伝導を良く記述する理論である弱結合理論(BCS理論)では記述が不十分な、引力の強い系における超伝導体における磁場下での超伝導揺らぎの理論を進めることであった。鉄系超伝導体 FeSe では、超伝導ギャップとバンド幅が同程度な強結合超伝導が実現しており、冷却フェルミ原子系の超流動に関連して発展したBCS-BECクロスオーバー域の超伝導に該当する可能性がある。磁場下の強結合超伝導では、粒子数保存の式に現れるボゾン数による寄与に式の上で発散が生じるため、この発散を物理的に理由から回避する、いわゆる繰り込みの操作が必要となる。この困難があるために磁場下の強結合超伝導の一般論はこれまで開発されていなかった。 今回、この困難を回避する一方法として、化学ポテンシャルはゼロ磁場下で決まっているというゼロ磁場超伝導転移温度近くの弱磁場域で正しいという条件下で超伝導揺らぎをフルにとり扱う磁場下の強結合超伝導の理論を開発し、進めた。具体的には、磁化や比熱などの熱力学量を計算する手法を開発し、BCS理論に基づく従来の超伝導揺らぎの理論による結果との本質的な違いに主に着目した。鉄系超伝導体 FeSe では、揺らぎによる反磁性磁化の大きさが弱結合理論の結果に比べ一桁以上大きく、多バンド性があるとしても弱結合理論の枠内では理解困難であったが、今回の理論を実行してこの特徴が容易に理解できることがわかった。また、FeSe では実験的に調査されていないが、最低ランダウレベルスケーリングが強結合域では通常満たされないことが今回の理論によりわかったので、今後実験グループの協力のもとで調査できる問題だと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題申請時点では、BCS-BEC クロスオーバー域にある系の超伝導の理論の磁場下の状況への単純な拡張は理論的に困難があることがわかっていたため、困難をうまく回避する手法を見出せたことで、本研究課題を前進させる見通しが得られ、第一段階をクリアできたという印象であった。その後、磁化など物理量の具体的な計算に進み、強結合域の系では最低ランダウ準位スケーリングが成立しないといった、実験的に検証可能な知見を得たことは、当該分野への寄与の主張できる有意義なことであった。ただし、強結合域超伝導体に対する理論を多バンド系に拡張したところまで進められなかった点で不満が残った。次年度に予定していた研究目標が増えたことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、鉄系超伝導体 FeSe の記述に BCS-BEC クロスオーバーの理論を適用するのかが不可欠であるか否かを問い直すために、化学ポテンシャルへのボゾン繰り込み効果を無視できるという海外の理論研究グループで提案された特殊な2バンドモデルにおける磁場下の超伝導揺らぎ効果の調査をまず実行する。このモデルにおいては、パウリ常磁性効果が強いと期待されるにもかかわらず、線形の Hc2(T) 線(平均場近似での超伝導転移線)が低温で実現しているという FeSe がもつ奇妙な結果が説明できそうであるため、単なる BCS-BEC クロスオーバー描像よりも FeSe を正しく記述する可能性がある。超伝導揺らぎの特徴、パウリ常磁性効果に起因すると期待される高磁場超伝導相を示唆する実験事実、などのコンシステントな説明をこのモデルに立脚して目指すというのが、平成29年度の研究計画の主要部分になる。
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Causes of Carryover |
大学院生の特別研究員申請時に十分な解析の進行が望めなかったため、夏季の低温物理国際会議(QFS2016)での研究発表および出席を取りやめた。その結果、使用予定であった旅費50万円ほどを次年度に回すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度には、4月時点で、6月、7月、8月の計3回の海外出張を予定している。これは、前年度未使用分の消費を予定して組んだ予定である。
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Research Products
(6 results)