2017 Fiscal Year Research-status Report
南九州下のスラブ起源流体の挙動解明をめざした3次元地震波速度構造の高解像度推定
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16K05540
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
澁谷 拓郎 京都大学, 防災研究所, 教授 (70187417)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 地震波走時トモグラフィ / 3次元地震波速度構造 / スラブ起源流体 / 南九州 / レシーバ関数 / 地震波速度不連続面 / フィリピン海スラブ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、南九州において我々が独自に行っているリニアアレイ地震観測のデータに対して、レシーバ関数解析と地震波走時トモグラフィを組み合わせたハイブリッド手法を適用して、より高解像度で高精度の3次元地震波速度構造を推定し、低速度域の分布からスラブ起源流体の挙動を解明し、および日向灘地震の震源域の物性や桜島や霧島などの火山へのマグマ供給過程を推定することを目指す。 平成29年度は、フィリピン海スラブの傾斜方向の「宮崎-阿久根測線」と少し斜交する方向の「宮崎-桜島測線」でリニアアレイ地震観測を継続した。この観測で得られた波形データに対してレシーバ関数解析を行い、測線断面におけるS波速度不連続面のイメージを更新した。 地震波走時トモグラフィ解析の入力データとなるP波走時とS波走時の読み取りでは、平成28年4月に発生した熊本地震の大量の余震を活用するため、解析対象領域を北に広げ、2,277個の近地地震と稍深発地震に対して、実績ある業者に依頼して、自動読み取りを行った。 トモグラフィ解析においては、2011年2月から2016年3月までの読み取りデータを用いて、試行を行った。速度構造モデルのグリッドサイズは0.1°×0.1°×10 kmに設定した。不連続面として、大陸モホ面、スラブ上面、海洋モホ面を組み込んだ。今回は、111,447個のP波走時を解いて、P波速度の3次元構造を求めた。その結果、深さ10 kmでは新燃岳、桜島、開聞岳の近傍に低速度異常が見られること、深さ20 kmでは上記の3火山の付近に強い低速度異常域が広範囲に広がっていること、日向灘の沿岸部付近にも強い低速度異常が見られること、海洋地殻は、深さ30 kmと40 kmでは低速度異常を示すが、深さ50 kmと60 kmでは高速度異常を示し、それ以深ではまた低速度異常を示すこと、などの特徴がわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
南九州において、「宮崎-阿久根測線」と「宮崎-桜島測線」を中心に20数点の臨時観測点を維持し、定常観測点も含めて、レシーバ関数解析で使用する遠地地震とトモグラフィ解析で使用する近地地震(稍深発地震も含む)の地震波形を切り出し、レシーバ関数解析とP波とS波の読み取りを行った。トモグラフィ解析の試行も行った。 レシーバ関数解析では、上記の2測線において、S波速度不連続面を表すレシーバ関数イメージを更新した。マントルウェッジ部分では大陸モホ面が不明瞭であり、そこではマントルが下部地殻に比べて高速度でないことが分かった。このマントルの低速度化は流体によるものと考えられる。ただ、今のところ、水平成層モデルに基づくイメージングに留まっていて、九州下のフィリピン海スラブのように傾斜する不連続面を正しくイメージするためには、傾斜層を考慮したイメージングに改良する必要がある。 トモグラフィ解析では、2011年2月から2016年3月までのP波走時の読み取りデータ111,447個を用いて、速度構造モデルのグリッドサイズを0.1°×0.1°×10 kmに設定して、P波速度の3次元構造を求めた。その結果、火山に関わる低速度異常が新燃岳、桜島、開聞岳の近傍に見られること、スラブの脱水に関わる低速度異常が海洋地殻の浅いところ(30~40km)と深いところ(80km以深)で見られること、スラブが上に凸に折れ曲がる50~60kmの深さでは海洋地殻が高速以上を示すこと、など興味深い特徴がわかった。グリッドサイズをもう少し小さくできるかどうかを検討すること、およびS波走時を用いてS波速度の3次元構造を推定することが、次のステップの課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
レシーバ関数解析により得られる地震波速度不連続面のイメージや稍深発地震の震源分布から大陸モホ面、フィリピン海スラブ上面、海洋モホ面の3次元的形状を推定し、トモグラフィの速度構造初期モデルに組み込む。近地地震と稍深発地震の波形からP波とS波を読み取り、得られた走時データを用いてトモグラフィ解析を行い、地震波速度の3次元分布を推定する。低速度異常域の分布からスラブ起源流体の挙動を推測する。さらに、低速度異常の強さやポアソン比(P波速度とS波速度の比)から日向灘地震の断層面であるプレート境界面やマントルウェッジのマグマ発生域の物性や状態を議論する。
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Causes of Carryover |
(理由)論文原稿の執筆が遅れていて、英文校閲を受けることができなかった。 (使用計画)今年度は、5月に千葉市幕張メッセで開催されるJpGU 2018での発表が決まっており、また、10月に福島県郡山市で開催される地震学会でも発表する予定であるので、これらの学会参加のために旅費を支出する。地震波形データからのP波とS波の走時の読み取りを業者に委託して行う。論文の執筆・投稿に係る英文校閲費や投稿料・掲載料の支出も予定している。
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