2017 Fiscal Year Research-status Report
低温イオン移動度質量分析を用いた溶媒和された高分子イオンの立体構造の観測
Project/Area Number |
16K05641
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大下 慶次郎 東北大学, 理学研究科, 助教 (40373279)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イオン移動度質量分析 / 溶媒和 / イオントラップ / 質量分析 / エレクトロスプレーイオン化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、1)エレクトロスプレーイオン化(ESI)を用いたイオン源と四重極イオントラップ(QIT)、低温イオンドリフトセルを組み合わせた低温イオン移動度質量分析(IM-MS)装置を開発すること、2)開発した低温IM-MS装置を用いて、溶媒和された高分子イオンの立体構造を観測することである。装置開発、観測を行い、溶質-溶媒分子間ならびに溶媒分子間相互作用により引き起こされる高分子の立体構造形成過程を研究する。 平成28年度に装置の設計製作を開始し、ESIイオン源により生成した水和メチレンブルー分子正イオンMB+(H2O)nを質量分析計で観測した。さらにQITを用いることでMB+(H2O)4のイオン強度として20 cpsを達成した。 平成29年度には、液体窒素で冷却できる低温イオンドリフトセルを装置に組み込み、低温IM-MSの実験を開始した。まず電子衝撃イオン化源により生成したO2+、CO2+の衝突断面積を測定した。測定結果を以前に報告されている衝突断面積の有効温度依存性と比較して、イオンドリフトセルの温度補正を行った。次にESIイオン源により生成したメチレンブルー分子正イオンMB+の衝突断面積を測定した。このときイオンドリフトセルの温度を110 Kに冷却した。MB+の衝突断面積の実測値と計算値を比較した結果、測定誤差の範囲内で一致した。 しかし、水和イオンの衝突断面積はイオン量不足のため測定できなかった。そこでイオン量を増加させるためにイオンファネルを新たに設計製作し、ESIイオン源に組み込んで実験を開始した。その結果、イオンファネルによるイオンの飛行軌道の収束効果により分子イオンの量は増加したが、水和イオンは観測されなかった。これはイオンファネル内で水分子の脱離が起きたためと考え、イオンファネルの長さを短くするために新たな真空チャンバーの設計を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は新たに真空チャンバー内に設置したイオンドリフトセルを用いて、低温イオン移動度質量分析の実験を開始し、エレクトロスプレーイオン化により生成した色素分子イオンの衝突断面積を測定することができた。よって平成29年度の目標は達成できたと評価できる。さらに、平成30年度から水和された高分子イオンのイオン移動度質量分析を行うために、イオン強度を増加させることが必要と考え、イオンファネルを新たに設計製作し実験を開始し、現在実験条件の最適化を進めている。装置製作の過程においては様々な部品を試作し、配置を変更しつつ実験を行っている。少しずつではあるが着実に装置の開発と改良が進められていると考えられ、本研究課題の現在までの進捗状況はおおむね順調と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は低温イオン移動度質量分析装置を用いて、エレクトロスプレーイオン化で生成した水和された分子イオンと緩衝ガスとの衝突断面積を測定し、分子イオンの立体構造における水和の効果を研究する。しかし現状では、水和イオンのイオン移動度質量分析はできていない。この分析を行うためには、イオン源で生成した水和イオンからの水分子の脱離を抑制し、なるべく多くの水和イオンをイオンドリフトセルまで導入することが必要であると考えられる。そこで本研究課題では、イオンファネルなどのイオン光学系を新たに設計製作し、研究目標の達成へとつなげる。
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Research Products
(11 results)