2017 Fiscal Year Research-status Report
新しい自由エネルギー分割法を用いた分子内環境自己制御法の開発
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16K05664
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
麻田 俊雄 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10285314)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自由エネルギー経路最適化 / CDRK法 / 自由エネルギー寄与解析法 / QM(CDRK)/MM法 / セファロチン / beta-lactamase / 分子設計 / 自己環境制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
すでに量子化学計算(QM)と力場計算(MM)を組み合わせたQM/MM法と独自に開発したCharge and atomic dipole response kernel (CDRK)法を組み合わせたQM(CDRK)/MM法を提案している。これを用いて、生体分子内の化学反応が生じる領域に存在する各原子にかかる自由エネルギー勾配(FEG)を分子動力学法をもちいて高速かつ高い信頼性で計算することに成功した。実用段階では、相関係数0.99以上で量子化学計算による結果を再現しつつ、時間は1000倍以上高速となった。 本年度は、この手法を抗生物質の一つであるセファロチンと、それを分解する細菌由来のbeta-lactamaseの複合体に適用することで、抗生剤を分解する際の反応プロファイルについて詳細を得ることに成功した。beta-lactamaseは、細菌が抗生剤を分解するために産生されるため、分子修飾の主体は抗生分子のセファロチンに限定される。一方、より耐性菌に強いセフォチアムに代表される第二世代の抗生剤には、セファロチンに含まれるチオフェン基に代わり、2-アミノチアゾール基が用いている点が大きな違いである。 二つの分子を分子軌道計算を用いて比較検討した結果、2-アミノチアゾール基は置換基部位に含まれる一つの共有結合両端に位置する原子間で大きな分極が生じていることを明らかにした。そこで、FEGとCDRK法を活用することで実現可能となった、独自の自由エネルギー寄与解析法を用いて、遷移状態に着目し置換基内の電荷の違いによる自由エネルギープロファイルへの影響を解析した。その結果、分極にかかわる二つの原子の影響が大きく異なることから、結果的に自由エネルギー障壁を2kcal/mol程度高くする効果があることを突き止めることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度にQM(CDRK)/MM法を扱うための計算プログラムを独自に開発するとともに、並列化が高いことを確認した。これにより計算機性能の向上のメリットを十分に享受することができる。実際、FEGを得るために要する時間は1000倍以上高速となった。実用上の問題を克服することができたと結論できる。数式の導出と自由エネルギー寄与解析法の定式化は、昨年度にすでに論文で公表してきた。 本年度は、beta-lactamaseとセファロチンについて本手法を適用した結果、自由エネルギー障壁への寄与が大きな周辺アミノ酸は、予想通り近距離にある電荷をもった残基であることを確認した。さらに、本研究課題の到達点の一つとして、セファロチンよりも分解されにくい抗生剤を理論的に設計・提案することがある。当該年度内で、基本的な分子設計のための指針を確立することに成功した。既存の抗生分子中の各原子からくる自由エネルギー障壁への寄与を自由エネルギー寄与解析法で明らかにした。遠距離で重要なのは静電的な相互作用なので、既存原子の電荷調整をシミュレーションすることで自由エネルギーへの影響をコントロールすることが可能であることを示した。 この手法の実用性を確認する目的で、セファロチンにつぐ第二世代の抗生剤を比較対象として検討した結果、第二世代の抗生剤で導入された置換基が自由エネルギー面上の遷移状態を明らかに引き上げる働きをしていることを示した。これにより、分解の反応速度を2ケタ低下させているのである。本成果は査読付き論文として公表した。第二世代の抗生分子との比較検討を通して、原子毎の自由エネルギーへの寄与を見積もることができることを確認したことで、分子設計の信頼性をより高くすることができた点で、計画はおおむね順調に進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
自由エネルギー寄与解析法では、独自の方法であるCDRK法を用いている。この方法では反応が生じる活性中心の各原子に対して、基質を構成する各原子からくる静電ポテンシャルと電場の変化を正しく見積もるだけで、分極を考慮した自由エネルギーグラジエントが高い信頼性で解析できる。一方、置換基を導入することで置換基自身の配向にも自由度が生じることから、部分構造最適化を実行したうえで、これらの置換基からくる影響を算出する必要が生じる。これら分子修飾による構造緩和の効果も取り入れる予定である。 また、自由エネルギー障壁への影響が最も大きいセファロチン内の部位をすでに解明できたことから、電子吸引基と供与基を実際に当該箇所に導入し、自由エネルギー障壁をコントロールする計画である。少なくとも、置換基の特性と位置が反応部位の外場環境にどのように影響するかを視覚的にとらえるための基盤を確立する。 並列計算環境を利用すれば、同時に異なった置換基の外場効果を算出することが可能である。さらに、既知の置換基を検討するだけでなく、自由エネルギー障壁を設定した値に制御するための外場環境を設計し、目的の外場環境を実現するために、より戦略的に置換基そのものを構築することを目指す。当初の研究目標である分解されにくい分子設計自体は、早期に完了させたい。置換基そのものを構築できる方法は高度な分子設計を可能にするうえで欠かせないと考えている。一連の分子設計指針は、独自のCDRK法を用いることで可能になった。これら完全に独自の研究計画をさらに発展させる基盤を確立する計画である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、抗生物質の一つで研究対象分子であるセファロチンに対して、直ちに置換基を導入することでベータラクタマーゼに分解されにくい分子の候補を検討する予定であった。しかしながら、置換基の構造揺らぎの影響と外場の効果が同時に発現する現象を扱うために、原因の特定が困難であると判断し、揺らぎの影響が小さいといえる第二世代の分子についての検証を一ステップ追加したため、実際の置換基のスクリーニング作業を次年度に実施することとなった。 結果的には、第二世代の分子の特性と分子設計への信頼性が高いことを確認したので、今年度は高い信頼性で複数の置換基検討を実施することが可能になった。当初の研究計画が縮小したわけではないため、高速な計算機の導入を行うことで、より多くの置換基の影響について検討を実施する予定である。また、海外での学会発表を積極的に行うとともに、国内の学会発表を通して情報公開のために予算を使用する計画である。
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[Journal Article] Effects of the Alkyl Substituents on the Organic Thin Film Transistor Characteristics of Thiophenefused Naphthalenes: Molecular Simulation, Synthesis, and Device Characterization2017
Author(s)
Motoki Kumeda, Atsushi Yamamoto, Toshio Asada, Yasunori Matsui, Kenichiro Takagi, Yu Suenaga, Kunihiko Nagae, Eisuke Ohta, Takuya Ogaki, Hiroyoshi Naito, Shiro Koseki and Hiroshi Ikeda
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Journal Title
J. Jpn. Soc. Colour Mater.
Volume: 90
Pages: 1-5
DOI
Peer Reviewed
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