2016 Fiscal Year Research-status Report
溶液内化学反応やアモルファス材料のダイナミクスへ向けた大規模量子化学計算法の開発
Project/Area Number |
16K05677
|
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
Fedorov Dmitri 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター, 主任研究員 (60357879)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西本 佳央 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 特定助教 (20756811)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 大規模計算 / 量子化学計算 / 理論開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではフラグメント分子軌道(FMO)法と密度汎関数強束縛(DFTB)法を組み合わせたFMO-DFTB法を基にして、大規模分子動力学シミュレーションを行い、動径分布関数を予測する等の応用計算を通じて、様々な系への応用に向けた土台を完成させることを目標としていた。今年度の研究では、計画通りにself-consistent Z-vector方程式をFMO-DFTB法へ適用できる形に導出し、プログラムに実装した。これにより、完全に解析的な勾配を計算することに成功し、大規模分子動力学シミュレーションが可能になった。また、FMO-DFTB法を用いてハロゲン化水素の動径分布関数を理論的に予測し、実験の結果と比較を行った。用いるDFTB法のレベルや分散項補正により結果が変わってしまうものの、おおむね実験と良い相関を示すことがわかり、今後の応用計算へ向けての土台が完成しつつあると言える。これらの結果を論文にて誌上発表を行い、学会発表を行った。 連続誘電体モデル(PCM)を組み合わせた場合の解析的勾配に関しても導出・実装を行い、溶媒中における電子状態の計算が可能になった。研究を進める上で、更なる精度の向上が必要であると判明したため、三体展開法(FMO3-DFTB法)の開発を行い、従来の二体展開法より精度が高いと実証した。ここで開発したFMO3-DFTB法を用いて、ナトリウムカチオン周りの水分子の動径分布関数を理論的に予測し、実験や他の理論的手法により予測された配位数との比較を行った。本研究で新しく開発したFMO3-DFTB法が予測する配位数は、過去に実験や理論的に予測された値と良い一致を示しており、高い精度を得るために三体効果が重要であることを示していると言える。さらに、FMO-DFTB法の解析的二次微分計算を可能にした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、初年度にself-consistent Z-vector方程式を導出・実装を行うことを目指していた。その理論開発とプログラムへの実装を終えて、解析的勾配の精度を明確にした。これにより、従来大きな問題となってきた勾配に関する精度の問題を解決したと言える。また、解析的勾配を分子動力学シミュレーションでも用いることができるようにした。これらの理論開発により、本研究に必要な基礎を築き終えたと言える。研究結果を論文と学会にて発表を行った。また、来年度以降の研究例として挙げた「動径分布関数の予測」に関しても、すでに二つの系を用いて完遂しており誌上発表まで行っている。そればかりでなく、FMO-DFTB法の実用性をさらに広げる為、連続誘電体を用いて溶媒効果の取り入れた、FMO-DFTB/PCM法での解析的勾配と、三体効果の取り入れ(FMO3-DFTB法)も果たしており、来年度以降の研究もスムーズに進行できる可能性が高い。さらに、静的な化学反応を取り扱う可能性を考慮し、FMO-DFTB法を用いての解析的二次微分計算を可能にした。来年度以降に得られると考えられる動的な化学反応の結果と比較することで、より化学反応を動的に取り扱う必要性を強調できるようになると考えられる。以上を踏まえ、現在までの進捗状況は、順調に進行していると言って良い。社会に寄与する為、既に一部の開発した計算手法をGAMESSの中で公開した。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、連続誘電体モデルと組み合わせた手法を開発することで、溶媒中における巨大分子の構造最適化が可能になったが、分子動力学シミュレーションの最中は、露わに溶媒を取り扱うことが望ましい。特に、溶液中化学反応の場合、溶媒分子自体が反応に関与するため、溶媒を連続誘電体ではなく分子として扱わなければならない。分子として扱う溶媒は、化学反応中の結合生成や解離によって、分割の仕方が問題になると考えられる。今後の研究は、露わな溶媒分子を用いて、溶液内化学反応に必要な技術の構築を行う。最大の問題として、反応の進行に応じて動的再分割法が必要になるため、その方法を検討する。既に開発が終わった三体展開法で精度が改良されることがわかったため、今後の方策としては、どのように動的再分割法を化学反応に適用するかを検討する。前述の通り、今後の研究に向けた準備は進行しているため、基礎的開発は終わっている。他の問題点としては、サンプリングの方法が問題になる可能性があるため、効率化のためにレプリカ交換法やRATTLEなど、分子動力学シミュレーションでよく用いられるアルゴリズムを組み合わせていきたいと考えている。新しく開発した計算手法を、今後もGAMESSの中で公開するための準備を進めている。
|
Causes of Carryover |
購入した計算機の価格が計画当初の値段よりも安くなっていた点が挙げられる。 また、初期に行う予定となっていた研究が計画以上に早期に完了したことから、当初の計画よりも議論をする必要性が減ったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降はより綿密な議論が可能になるよう、旅費に充てたいと考えている。
|
Research Products
(7 results)