2018 Fiscal Year Research-status Report
[2.2]-パラシクロファン類の触媒的不斉合成法の開発と不斉合成素子としての利用
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16K05685
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
森 啓二 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10515076)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | [2.2]-パラシクロファン |
Outline of Annual Research Achievements |
医薬・農薬品の主構造に数多く見られる不斉情報を制御する、いわゆる不斉合成反応の開発は、現代の有機化学において重要な地位を占めている。不斉制御の鍵となる新たな触媒開発の比重は高く、これまでに様々な不斉配位子や不斉触媒が開発されてきた。しかしこれまでの研究の多くが、安定な軸不斉を持つビナフチル類に焦点をあてており、同様に安定な不斉情報(面不斉)を持ち、強固な不斉場の構築が期待できる[2.2]-パラシクロファン類の不斉触媒への応用例は少ない。これは、パラシクロファン類の不斉合成法およびその合成的変換法が未発達であることに起因する。このような背景のもと本研究では、[2.2]-パラシクロファン類の触媒的不斉合成法の開発とそのキラル素子(不斉有機触媒、不斉反応剤)としての利用を目的とした。 今年度はこれまでに開発した [2.2]-パラシクロファン類の触媒的不斉合成法のもと、この骨格を持つ様々な誘導体の合成を目指し研究に取り組んだ。その結果、当該骨格の各種有機溶媒に対する溶解性が低く、合成が困難、ないしは合成できたとしてもその収率が低い値にとどまってしまう、という問題が生じた。この解決を目指し検討を進めた結果、[2.2]-パラシクロファンと類似構造を持つ1,8-ジアリールナフタレンが有望な構造単位として機能することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに研究推進の鍵となる[2.2]-パラシクロファン類の不斉合成に関して、近年環境調和型触媒として大きな注目を集めているキラルリン酸触媒が効果的に機能することを見出し、当該骨格を高エナンチオ選択的に得ることに成功している。この知見のもと本年度は、この骨格の誘導化、およびそれを基盤とする新規触媒創成を目指し、研究に取り組んだ。まずは当該骨格の誘導化に関して検討を進めたが、 [2.2]-パラシクロファンの特異な骨格のためか、その達成は容易でないことがわかった。すなわち、骨格の対称性の高さが起因していると予想されるが各種有機溶媒に対する溶解性が低く、高希釈条件を必要とするため、合成が困難、ないしは合成できたとしてもその収率は低い値にとどまった。この点に関しては骨格そのものの性質のため改善は困難であったが、[2.2]-パラシクロファンの類縁体構造が有効に機能しうることを見出した。その鍵となるのが、1,8-ジアリールナフタレン構造である。[2.2]-パラシクロファンにおいては上下の芳香環、とくに基質認識に関わる活性部位の位置を自由に変えることは困難である。一方、新規構造では“原理上”は対応するジヨードナフタレンに対しての逐次的カップリングにより非対称な芳香環を導入することが可能である。また、二つの芳香環がメチレン鎖で繋がってはいないが、その近接した構造のために擬似的な面不斉の誘起も期待できる。この構造を持つ類縁体の合成に関して検討を進めた結果、期待通り、[2.2]-パラシクロファンよりも容易に誘導化可能であることが判明した。これは今後の触媒開発における重要な知見である。
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Strategy for Future Research Activity |
H29, 30年度の研究でキラルリン酸触媒を用いた触媒的不斉合成法の基質適用範囲の解明、ならびにその合成上の問題点を洗い出すことができた。またその検討の中で、[2.2]-パラシクロファンの類似構造である1,8-ジアリールナフタレン構造が有望であることを見出したので、H31年度はこの骨格を有する様々な誘導体の合成およびその機能評価に精力的に取り組む。この新しい骨格の利点として[2.2]-パラシクロファンと比べて非対称型の構造が構築しやすいことが挙げられるが、同じ芳香環を持っていても二つの芳香環がメチレン鎖で繋がっていないために、各種有機溶媒に対する高い溶解性が期待できる。そこでまずは同じ芳香環をクロスカップリング法で導入し、その有効性を探るところから研究を開始する。様々な対称型・非対称型基質を合成し、その活性評価を行う。これまでの有機分子触媒で高い活性を示すことが知られている二官能性触媒への応用も視野にいれて、研究を進める。また、光学分割を行い、不斉構造としての有用性の調査も行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初、本反応は様々な誘導体に展開できる可能性を秘めていると考えていた。しかし、[2.2]-パラシクロファンのジヒドロキシ体であるPHANOLにしか適用できない上に、誘導化が困難であることが判明したため、基質検討で必要とされる予算を削減できた。当初計画とはやや外れるが新しい骨格構造の有用性が見えてきているため、翌年からのこの新しい触媒開発に注力すべく期間延長を行うこととした。 H31年度は前年度の繰越金を合わせた研究費を以下の内訳で使用する予定である。すなわち、様々な基質検討に関わる原料合成用試薬や溶媒、ガラス器具の購入費(消耗品費)として145万円、研究代表者の触媒化学に関する知識をさらに広げるための学会参加費として20万円、学内の測定装置の使用に関わる経費として15万円を使用し、研究を強力に推進していく。
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