2017 Fiscal Year Research-status Report
ヤヌス環を持つロタキサンの創製:新しいスイッチング形式の開発と多段階スイッチング
Project/Area Number |
16K05691
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
徳永 雄次 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (80250801)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 分子スイッチ / 刺激応答 / 水素結合 / アミド |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、新しいスイッチ形式を持つ分子の基質となるロタキサン合成を検討した。検討内容は、(1) 第1級アミンからなるアミド(NHアミド)を2個、環に持つロタキサンの合成、(2) 4個のNHアミドを環に持つロタキサンの合成、(3) 4個のアミドを環に持つ[3]ロタキサンの合成、(4) テトラアミド環からなる[2]ロタキサンの軸部の変更、(5) テトラアミド環のアミド部間のスペーサー変更とその効率合成、(6) ウレアを導入したロタキサン合成、それぞれについてである。(1)については、2種の新しいロタキサン合成は出来たものの、合成収率も低く、また刺激応答も観測できなかった。(2)については、合成の前駆体となる環分子の溶解性に難があり、ロタキサン合成検討も行えなかった。(3)では、過剰の軸部を存在させた条件で反応を行ったものの、目的の[3]ロタキサンの存在は確認できなかった。(4)では、軸部にジアンモニウム塩を用いたところ、高い比率で擬ロタキサン形成が認められ、その合成も達成した。(5)については、まず、効率合成法を検討したところ、スペーサー部位の導入順序と方法を変更することで短いルートでの合成法を見出したところである。またこの際、異なるスペーサーを有するテトラアミド環の合成も行っている。(6)は、シャトリングと環反転を組み合わせたスイッチングを期待した検討であるが、現在までウレア部を持つロタキサン合成は確認されていない。 一方、新規に合成したロタキサンのスイッチングについても実施した。(4)で得られたロタキサンの溶媒に対するコンフォメーション変化(スイッチング)を検討したが、その応答は確認できなかった。しかしながら、モノアンモニウム塩からなるロタキサンでは溶媒に対するスイッチングが一部観測できたことから、テトラアミドとアンモニウムからなるロタキサンの新しい特性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
プラス要因は次の通りである。テトラアミドとアンモニウムからなるロタキサンの合成については、軸部にジアンモニウム塩を用いることで、従来法に比較し高い収率で目的とするロタキサン合成を達成し、また多段階を有していた環部の合成が、比較的容易にできる合成ルートを見出した。これらの結果より、今後、類縁のロタキサン合成が容易に行える手筈が整った。また、軸部をジアンモニウムイオンとしたことで、ジアンモニウムの脱プロトン化が段階的に進行することが可能となり、予定した研究以上の多段階応答が期待できること、またモノアンモニウムイオンを持つ軸との相違も観測でき、新たな知見が見出された。 一方マイナス要因は以下の通りである。刺激に対する新しい様式のスイッチング(環部のコンフォメーション変化)が認められたものの、応答比率が予想より悪いのが現状である。また、今年度予定していた[3]ロタキサン、並びにウレアを有するロタキサンの合成を集中して行ったものの、予定していたこれらの合成は未だ達成していない。そのため、環部のコンフォメーション変化とシャトリングを組み合わせたスイッチングを検討できなかった。 以上より、第一の目的で「新しい様式のスイッチング」見出し、その類縁体合成法を確立し、足場を固めることはできた。しかしながら、論文などに投稿できる完全なデータが、今年度蓄積されなかったことより、総合的に「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように、目的とするテトラアミド/アンモニウム型ロタキサンについて、収率良く、比較的簡便に合成する方法は確立できた。そこで本法を用い類縁ロタキサン合成を種々検討し、以下に示した研究を実施する。 第一に、これまで合成が達成できていないNHアミドを4個有するロタキサン合成を検討する。これまでの方法とは異なり、予めアミドの窒素上に保護基を導入してテトラアミド環を持つロタキサン合成後に脱保護し、その合成を行う。続いて、得られたNHアミドを持つロタキサンの軸上のアンモニウムの脱プロトン化に伴う完全なコンフォメーション変化について検討する。また、ジアンモニウムイオンの段階的な脱プロトン化によるスイッチングの詳細についても検討する。 第二に、環のアミド部間のスペーサー、軸に存在する2個のアンモニウムイオン間のスペーサーをそれぞれ変化させ、ロタキサン形成に関し、環と軸のスペーサー部位の相補性について議論する。この際、環スペーサーが長い基質については、モノアンモニウム軸に対し、 [3]ロタキサン合成も期待できるため、その合成を実施する。 第三に、水素結合ドナーとアクセプター能を併せ持つ官能基(例えばウレアなど)を軸部に導入したロタキサン合成を行う。特に、4個のアミドのうち2個をNHアミドとする環に於いては、環自体にドナーとアクセプター能を付与することができるため、様々な基質の軸とのロタキサン形成を実施する。
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Causes of Carryover |
理由:研究実績の概要で述べたように、計画した研究についてはほぼ実施している。しかしながら研究成果が予定より少し遅れているため、成果発表できていない。そのための成果発表に関する経費、即ち、旅費並びに論文校閲費が予定していた支出に比べ少なかったことで、少量の繰越金が発生した。
使用計画:今後の研究の推進方策にも記載したが、次年度は類縁のロタキサン合成を予定しているため、まずはその経費に使用する。また蓄積するデータを基に成果発表に関わる経費に当てる予定である。
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