2017 Fiscal Year Research-status Report
低原子価多核鉄錯体を用いた安定多重結合種活性法の開発
Project/Area Number |
16K05720
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
畑中 翼 大阪大学, 理学研究科, 助教 (80595330)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 小分子活性化 / 多核鉄錯体 / 低原子価 / 結合切断反応 / 還元反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、窒素分子などの小分子が有する多重結合を鉄錯体を用いて切断することを目標に、低原子価多核鉄錯体の合成とそれらを用いた基質活性化を検討している。これまでに低原子価の鉄中心を有する多核錯体の研究は、カルボニルやホスフィンなどのπ酸性の配位子を有する安定な錯体を中心に行われてきたが、本研究では不活性な小分子の結合切断を可能とするために、電子供与性の高い配位子を有する錯体を対象としている。一般に、そのような鉄錯体を還元した場合、配位子による安定化が十分ではなく鉄中心の脱離が進行してしまうため、鉄の電子構造に摂動を与えることが可能な部位を配位子内に組み込む必要がある。以上を踏まえ、平成29年度では、低原子価の鉄中心を準安定化させることを期待してバナジウム中心を有するビスアミド配位子を用いた鉄錯体を新規に合成した。得られた錯体のX線構造解析により、バナジウム-鉄間がかなり短いことが分かり、それらの金属間に結合があることが示唆された。この錯体を還元したところ、配位子の脱離は進行しないことがわかり、さらに得られた還元種を用いることで、窒素分子錯体の形成や、芳香環のC-H結合が切断可能であることが明らかとなった。特に窒素錯体に関して、窒素-窒素間の結合距離はこれまでに報告されている鉄窒素錯体と比較して、かなり長い部類に属し、二電子還元されていると考えられた。窒素分子が十分に活性化されていることから、得られた窒素錯体に基質を作用させることで、窒素分子の変換反応が可能となることが期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に引き続き、中心金属に鉄を有する新奇な低原子価多核錯体を合成した。それらの錯体のうちの1つである、骨格内にバナジウム中心を有する配位子をもつ鉄錯体を用いることで、平成29年度の目標として掲げていた、窒素分子の活性化を達成することができた。またこれに加え、芳香族のC-H結合を切断できたことは特筆に値すると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
窒素錯体を用いて窒素分子の量論的な変換反応を検討する。また他の小分子などの活性化も並行して進める。また得られた錯体の電子状態や磁性を明らかにするために、メスバウアースペクトル、SQUID、ESRスペクトルなどの測定を行うほか、理論計算を行う予定である。申請者の合成した錯体はこれまでに報告されている錯体では見られない構造を有しているため、特異的な性質を持っていることが期待される。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況の都合により、当初購入予定であった試薬、不活性ガスなどの消耗品の一部を購入しなかったため生じた。 生じた次年度使用額は試薬、不活性ガスなどの消耗品の購入に充てる予定である。
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