2017 Fiscal Year Research-status Report
近代発電用ダムの成立条件としての「地域・都市」の利益調整に関する研究
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16K06529
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
堀川 洋子 筑波大学, 生命環境系, 研究員 (00465270)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 明治 / 鬼怒川 / 水力発電 / 水利権 / 官選知事 / 水源地 / ダム / 持続的開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、鬼怒川本川筋における最も早い水利権付与の時期である明治39年に行われた水利権申請に着目して、水力発電勃興期における水利権をめぐる動きを明らかにした。本研究では、以下の5つの結論を得た。 1) 明治39年、鬼怒川本川での最下流中岩地点から取水する発電のためになされた二つの競願水利権申請は、いずれも技術的に十分な検討、準備がなされておらず、水利権を獲得するために急ごしらえで行った申請、競願であった。 2) 結果として水利権を得た出願者は、栃木県の住人を主体とした4府県にまたがる総勢48名からなるグループであり、子爵および男爵を含む中央の有力者と、栃木県内の地方有力者からなっていた。このグループの地元の代表格の人物は後にこの水利権を譲り受けた会社(日本水力電気)の代表者になったが、水利権はさらに他の会社に譲渡され、当初とは異なる放流位置の発電事業として実現した。日本水力電気は、水利権売買を行うブローカーのような存在であった。 3) 当時の県知事による水利権許可は、その後の電気事業に関する許可を経て、改めて工事施工の許可を受ける必要がある制度であった。始めの水利権許可はその後の手続きを進めるための要件であって、その意味で権利としての性格をもった。 4) 水利権許可権者である官選の県知事は、国策としての水力発電を推進する立場にあったが、少なくともこの時点では、全体として発電の導入は、既存農業水利を無視、侵害するような形で推進されたわけではない。 5) 当時の水利権許可手続きは、本来は手続き上無関係である市区町村を介することが少なくなかった。中岩水利権の出願者48名には、水源地域の藤原村の村長が加わっていた。藤原村では、発電会社からの寄付金を受け入れる制度が公的に整えられ、実際に複数の発電会社が寄付を行った。水源地域の村は、国や県、発電会社にとって無視できない強い存在であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究当初は民営発電に着目した研究を行っていたが、研究を進める過程で公営発電の重要性に気付き、現在は、民営発電と公営発電の双方を包含した調査分析を行っている。それによって、研究内容が格段に進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、公営発電による地域貢献の研究を中心に検討を行う。 また、29年度に明らかにした明治期の鬼怒川筋の水利権のその後についても引き続き検討を行う。
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Causes of Carryover |
理由:平成29年度の研究成果をまとめた論文作成等に想定以上に時間がかかり、予定していた投稿料や研究発表のための旅費の一部に未使用金が発生したため、次年度使用額とした。
使用計画:当初計画通り、平成29年度の研究成果をまとめた複数の論文の投稿料や発表会場までの旅費、発表会参加料等の支払いに使用する計画である。
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