2017 Fiscal Year Research-status Report
スペイン統治下の南イタリアにおける中世末期からルネサンスへの建築の変遷
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16K06679
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
飛ケ谷 潤一郎 東北大学, 工学研究科, 准教授 (30502744)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イタリア / スペイン / ルネサンス / イスラーム / 建築書 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29 年度では、スペインの現地調査については予定通りに進めることができたものの、入手できた資料が多岐にわたったため、それらの読解に時間がかかり、現在ではまだまとまった形にできていない状態である。しかしながら、スペインのルネサンス建築では、とくに開口部や天井といった細部に地元中世のイスラームやゴシック建築の特徴が残されていることが確認できたので、次年度の課題としたい。 一方、同時並行で進めているイタリア・ルネサンスの研究については、報告者の以前からの研究の蓄積がかなりあるため、そのいくつかをまとめることはできた。まず〔学会発表〕からみていくと、「セルリオの建築書『第五書』の宗教建築の礼拝堂について」と題する原稿を執筆し、9月に広島工業大学で行われた日本建築学会大会で発表した。また同大会では、卒業論文の研究指導をした学生・中島康雄との連名で、「幕末の台場と明治の砲台に見る刎出しの違い」と題する発表もした。この場合、研究対象の場所や時代は異なるものの、軍事技術者として活躍した後述のサンミケーリとは、方法論の上で応用が可能な知見を得ることができた。 次に〔図書〕として、ジョルジョ・ヴァザーリ『美術家列伝』所収の二人の建築家の伝記を翻訳し、解題を執筆した。ミケーレ・サンミケーリはおもにヴェローナやヴェネツィアで、そしてバスティアーノ・ダ・サンガッロはローマで活躍した。とりわけサンミケーリは、若年にはローマで修業を積んだのち、現在のクロアチア領やギリシア領をも含む広範なヴェネツィア共和国に点在する軍事関連施設の設計に多く携わったことは注目に値する。一方、サンガッロについては透視図法の名人として多くの舞台背景画を手がけており、前述のセルリオの建築書『第二書』との関係が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度のスペイン調査については、9月におよそ3週間でマドリッド周辺とアンダルシア地方の現地調査を実施した。マドリッドではおもにトマス・ナバロ・トマス図書館で文献調査を行い、おもな資料は収集することができた。ただし夏季で開館時間が短かったため、予定よりも多くの日数を費やすことになった。 一方、アンダルシア地方については、グラナダ、コルドバ、セビージャなどの主要な都市では遺構や美術館の調査は予定通りにはかどったが、郊外の小都市については公共の交通機関ではアクセスが難しいものも多いため、レンタカーで訪れた。アンダルシア地方の遺構は広範囲に点在しているため、移動時間を多く費やすことになった。修復中で見学不可の建物はなかったが、写真撮影については許可されなかったものもいくつかあった。
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Strategy for Future Research Activity |
2年間のイタリアとスペインでの調査結果を踏まえて、すでに本研究の申請前から行われていた南イタリアの建築の調査結果との比較検討を行う。しかし現段階では、南イタリアをひとまとめにしたスペインとの密接な関係よりも、むしろスペインとの関係の疎密さの程度によって、たとえばティレニア海側、アドリア海側、シチリア、サルデーニャなどのように、南イタリアをいくつかの地域に分類した結論が導き出せるのではないかと考えている。とりわけパレルモについては、中世には目まぐるしく支配者が交代したことが建築を見てもすぐに納得できるほど中世の建築はヴァラエティに富んでおり、構造的な技術面でも装飾的な意匠面でも興味深い事例が多い。さらに16世紀前半の建築については、ナポリでは盛期ルネサンスを迎えていたころにも、いまだ中世末期の伝統が残り続け、本格的なルネサンス様式が16世紀後半以降に導入されたという点では、スペイン本土と同じ変遷を辿った、すなわちスペインとの関係が最も密接であると予想できる。そこで最後の年である今年度は、日程などの都合で訪れることができなかった以下の都市における主要な建築を選んで調査したいと考えている。 パレルモ、サンタ・マリア・デッラ・カテーナ聖堂、パラッツォ・アバテッリス、ヌォーヴァ門 サンティアゴ・デ・コンポステーラ、 大聖堂、旧王立病院 レオン、サン・イシドーロ聖堂、サン・マルコス修道院
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