2017 Fiscal Year Research-status Report
生後発達期大脳における自閉症感受性遺伝子Auts2の生理機能の解明
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16K07021
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
堀 啓 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 代謝研究部, 室長 (70568790)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自閉症 / シナプス / 音声コミュニケーション / 記憶学習 / 大脳 |
Outline of Annual Research Achievements |
自閉症などの精神発達障害を分子レベルで明らかにすることを目標に、自閉症感受性遺伝子のひとつであるAUTS2(Autism susceptibility candidate 2)についての研究を行ってきた。Auts2遺伝子は自閉症や知的障害、統合失調症など幅広い精神疾患の発症との関連性が示唆される遺伝子であり、また、大脳皮質や海馬、小脳など、記憶学習や言語コミュニケーションを含む社会性の構築などに重要な高次認知機能を司るとされる脳領域で強く発現していることから、これら精神疾患との関連性が強く示唆されてきた分子である。しかしながら、脳の発生過程や成熟した脳でのAUTS2の生理機能については未だほどんとわかっていない。 本研究では、生後の脳発達過程でみられる発生イベントの一つである、シナプス形成に着目してAuts2の機能解析を行った。Auts2変異マウスを用いた解析から、Auts2を欠損するマウス脳では野生型マウスと比較して、興奮性シナプス特異的に過剰形成が起こることを見出した。特に、内側前頭皮質(mPFC)や側頭葉聴覚野、海馬における錐体細胞で顕著に表現型が見られ、過去に行われた自閉症患者死後脳を用いた研究においてもやはりこれらの脳領域で、興奮性シナプスの過剰形成が見られていることは興味深い。また、初代培養神経細胞を用いたタイムラプスイメージング解析から、Auts2を欠損する神経細胞では野生型と比べて、単位時間におけるスパイン形成・消失ダイナミクス(スパイン動態)が上昇していることも明らかにした。さらに、Auts2変異マウスを用いた一連の行動解析においては、記憶形成障害、社会性の低下、プレパルス抑制の異常、そして超音波発声解を用いた音声コミュニケーション能力の低下を示すなど、人の自閉症様症状を反映する様な行動異常が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究計画として、マウス大脳組織を用いたin vivoでのシナプス解析、初代培養細胞を用いたスパイン動態のライブイメージング解析については、ほぼ解析が完了している。また、マウス個体を用いた行動解析については、当初は大脳特異的Auts2コンディショナルKOマウスのホモ接合体を用いて行う予定であったが、育児放棄や食殺などで解析に必要十分な個体数が得られていないため、全身性にAUTS2をKOした別系統のAuts2ヘテロ変異マウスを用いた行動解析を実施した。その結果、以前、すでに論文として報告(PLoS one, 2014)しているAuts2 KOマウスでの解析結果に加え、本研究では社会性の低下や音声コミュニケーション能力の低下など、自閉症患者で見られる様な表現型が認められる結果を得ている。 以上のことから、本研究の進行状況は概ね順調に進行していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究からAuts2が生後発達期脳において、興奮性シナプス形成に関与することが明らかとなり、正常脳においては適切なシナプス数を維持するよう制御する機能を持つことが明らかとなった。これらのことから、Auts2に変異を持つ脳、特に「研究概要」で述べた脳領域における神経回路では、興奮性と抑制性シナプスのバランスに不均衡が生じ、結果としてマウス行動テストにみられるような行動異常が引き起こされることが示唆される。今後の方針として、(1)現在用いているAuts2KOマウスは発生初期からAuts2遺伝子を既に欠損しているため、胎生期での脳発生異常が副次的にシナプス形成にも影響を与えていることを否定できない。そこで現在、タモキシフェン投与により任意の時期(ここでは生後脳発達期から成熟期にかけて)Auts2をKOできる誘導系マウス(CaMKIIa-CreERT2)の交配を行っており、既に解析に必要なマウスが得られている。次年度には上記と同様の解析系を用いて検証を行う予定である。(2) シナプス恒常性の維持に関わるAuts2の分子機能を探るため、既に得られているプロテオミクス解析データから、Auts2結合分子のスクリーニングを行っている。有力な候補群について、生化学的解析、初代培養神経細胞を用いた細胞生物学的解析、また、子宮内エレクトロポレーションなどを組み合わせた脳組織レベルでの検証を随時行っていく予定である。また、Auts2のシナプスにおける生理機能をよりよく理解するため、現在、Auts2KOマウス脳組織スライスを用いた電気生理学的解析も行っている。
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Causes of Carryover |
当該年度の所要額における物品費については、実験器具などの消耗品費やマウス飼育費が、当初の計画より少ない額で本年度の研究を実施することができたため。ただし、次年度に計画している電気生理学的解析のシステム立ち上げにかかる費用や、来年度中に投稿を予定している論文の校正や論文掲載費用など、本年度以上に費用が必要となることが予想されるされるため、本年度に使用を計画していた費用を次年度に繰越すことにした。
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[Journal Article] Glycosphingolipid metabolic reprogramming drives neural differentiation2017
Author(s)
Russo D, Della Ragione F, Rizzo R, Sugiyama E, Scalabri F, Hori K, Capasso S, Sticco L, Fioriniello S, De Gregorio R, Granata I, Guarracino MR, Maglione V, Johannes L, Bellenchi GC, Hoshino M, Setou M, D'Esposito M, Luini A, D'Angelo G.
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Journal Title
The EMBO Journal
Volume: 37
Pages: e97674~e97674
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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