2017 Fiscal Year Research-status Report
うつ病発症における遺伝・環境・個別的要因の相互作用が検討可能な動物モデル
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16K07100
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Research Institution | Hyogo University of Health Sciences |
Principal Investigator |
土江 伸誉 兵庫医療大学, 共通教育センター, 講師 (00434879)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | うつ動物モデル / 水迷路学習 / 行動的絶望 / マウス / 個体差 / 脆弱性 |
Outline of Annual Research Achievements |
雄性のC57BL/6Nマウスを被験体とする水迷路学習実験の場面において、プラットホームのサイズとプールの周囲の環境を操作して課題の難度をある一定の水準以上に設定すると、一部の被験体が、プラットホームへのいち早い逃避という適応的対処行動の学習を徐々に放棄し、遂には行動的絶望状態に陥る(欝モデルマウス作製法(特許第4619823号))。我々は、これらの個体をLoser、対して、良好な学習を示す個体をWinnerと命名した。 平成29年度は、平成28年度に引き続き、このLoserを出現させる実験手続き(Winner-Loserモデル)のうつ動物モデルとしての妥当性と特殊性について、既存のうつ動物モデルである強制水泳試験(Porsolt et al., 1977)、オープンスペース水泳試験(Sun & Alkon, 2003)、および社会的敗北ストレスモデル(Golden et al., 2011)との比較によって検討した。その結果、Loserでは、血中コルチコステロンの増加によって特徴づけられるストレス反応が他のうつ動物モデルよりやや弱い一方、新たな学習に対する動機づけが顕著に低下していることが明らかとなった。また、血中サイトカインの挙動が、ヒトのうつ病患者に想定される変化と一部一致していた。 更に、Winner-Loserモデルをうつ的な表現型が想定されるIL-18遺伝子欠損マウスや中大脳動脈M1遠位部永久結紮によって作製される脳梗塞モデルマウスに使用した。その結果、これらのマウスでは、それぞれの比較対照マウスより行動的絶望状態を示す個体の出現率が有意に高かった。つまり、これらのマウスがうつ的な表現型を持つことが明らかとなり、Winner-Loserモデルがうつ的傾向の評価系として有用であることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、困難な水迷路学習場面で出現する行動的絶望状態を呈するマウス(Loser)が、うつ動物モデルとして妥当であることを証明し、こうしたマウスを出現させる実験手続き(Winner-Loserモデル)が研究ツールとして有用であることを示すことである。 これまでに、このモデルが、新たな学習に対する動機づけが低いという特徴を持つことを確認し、その背景にうつ病患者と似た血中サイトカインの変化があることを明らかにした。更に、強制水泳試験等の既存のうつ動物モデルとの比較から、Loserの持つうつ的特性が、嫌悪的なストレッサーに対する無条件性の反応ではないことを明らかにした。これらの実験結果は、強制水泳試験が選択的セロトニン再取り込み阻害薬に対して感受性が低いという問題の原因を解明するヒントともなった。 また、うつ的な表現型が想定される遺伝子改変マウスや脳梗塞モデルマウスを被験体とした実験を実施することで、Loserを出現させる実験手続き(Winner-Loserモデル)が疾患モデルマウスのうつ的表現型の解析に有用であることを示した。 以上の成果は、予想外の知見や今後の研究の方向性を定める上で有益な情報を多く含んでおり、本研究は、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度も、平成29年度に引き続き、Loserの行動科学的な表現型解析を多角的に実施し、データの充実を図る。また、うつ病のバイオマーカーとしての可能性が指摘されているサイトカインの定量をマルチサスペンションアレイを用いて進める。 更に、Loserのうつ動物モデルとしての妥当性が補強されたことを受け、うつと関連が深いとされる海馬等いくつかの脳部位のDNAマイクロアレイを実施し、健常な個体やうつ的表現型が想定される既存のモデルマウスとの比較から、Loserの行動的絶望状態の背景にある遺伝子群を検索する。 行動実験は、兵庫医療大学において実施する予定である。サイトカインの定量は田口明彦先生(神戸医療産業都市推進機構)、DNAマイクロアレイは山西恭輔先生(兵庫医科大学)の協力を得て実施する予定である。
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Causes of Carryover |
平成29年度は、旅費や人件費・謝金の支出を抑えたため、次年度使用額が生じた。 平成30年度は、実験動物やサイトカイン定量のための試薬・キットの購入、DNAマイクロアレイの委託、実験補助アルバイトの雇用、成果発表の準備等に多くの研究費を使用する予定である。
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Research Products
(4 results)
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[Presentation] Interleukin-18-deficient mice develop dysfunction of hippocampus resulting in depression-like behavior2017
Author(s)
Yamanishi, K., Doe, N., Mukai, K., Ikubo, K., Hashimoto, T., Uwa, N., Sumida, M., Kuwahara-Otani, S., Maeda, S., Watanabe, Y., Li, W., Hayakawa, T., Okamura, H., Yamanishi, H., & Matsunaga, H.
Organizer
WPA XVII World Congress of Psychiatry
Int'l Joint Research