2016 Fiscal Year Research-status Report
タンパク質凝集初期過程解析のための蛍光偏光相関分光装置の開発
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16K07312
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 条太郎 北海道大学, 先端生命科学研究院, 特任助教 (20585088)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 蛍光相関分光法 / 偏光蛍光相関分光法 / 回転拡散 / 並進拡散 / タンパク質凝集体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、生細胞内におけるタンパク質凝集体形成の初期過程における体積変化を蛍光偏光相関分光法(Pol-FCS)によって実現することを目指す物である。しかしながら研究代表者らが構築済みであったPol-FCS装置は、蛍光タンパク質の回転拡散係数測定のためには時間分解能が不足していた。また、生細胞内計測の実現のためには、測定感度を向上させることで細胞に照射する励起光を可能な限り抑え、光毒性を低減する必要があった。そこで当該年度(平成28年度)では、まずそれまで構築済みであったPol-FCSの時間分解能の向上と、光学系の高効率・高感度化を目指した。 Pol-FCSの時間分解能は、それまで用いていたハードウェア相関器を高速な物に変更することで、1.56ナノ秒まで向上させた。また、蛍光フィルタの最適化と消光比の高い偏光子の導入によって検出感度を向上させることに成功した。 次に、溶液試料によるPol-FCS計測の実証実験を行った。高時間分解能化によって、従来の装置で測定可能であった量子ロッドに加え、生物学実験で頻繁に用いられる緑色蛍光タンパク質(GFP)の回転拡散計測が可能になった。GFP標識した全てのタンパク質の回転拡散は、GFP単体よりも遅いため、この結果はPol-FCSによってGFP標識した全てのタンパク質を計測可能であることを示す重要な物である。また、タンデムリピートGFP(単量体~5量体)の溶液計測に成功したことから、徐々に成長して大きくなる凝集体形成初期過程の解析が十分に可能であることを実証できた。さらに次年度に予定していたPol-FCSによる生細胞内におけるGFPの回転拡散計測前倒しで世界で初めて実現し、上記タンデムリピートGFPの結果と併せて成果を論文誌に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度(平成28年度)では、①Pol-FCS装置の改良および②溶液試料によるpol-FCS計測の実証を計画していた。 ①Pol-FCS装置の改良では、それまで用いていたハードウェア相関器 ALV-5000/FAST(ALV GmbH, Germany)をFlex02-01D(Correlator.com, USA)に変更し、時間分解能を従来の12.5ナノ秒から1.56ナノ秒に向上させた。また、蛍光フィルタの最適化と消光比の高い偏光子の導入によって検出感度を向上させることに成功した。蛍光をファイバ光学系によって2分岐させ光学系を簡略化することも試みたが、測定信号に不要なノイズ成分が現れたため、この案は不採用とした。このことは測定分解能や精度に影響を与える物では無いため、問題はない。 ②溶液試料によるPol-FCS計測の実証では、従来の装置で測定可能であった量子ロッドに加え、生物学実験で頻繁に用いられる緑色蛍光タンパク質(GFP)の回転拡散計測が可能であることを実証した。また、タンデムリピートGFP(単量体~5量体)の溶液計測に成功し、徐々に大きくなる凝集体形成初期過程の解析が可能であることを実証できた。また、測定結果とシミュレーションの比較検討により、Pol-FCS測定によって単純に凝集体サイズの成長だけではなく凝集体を構成する分子の配向性を解析可能である可能性を示した。 当該年度の研究計画は上記の通り全て達成することに成功したため、更に次年度に計画していたPol-FCSによる生細胞内におけるGFPの回転拡散計測を前倒しで行った。生細胞内での蛍光タンパク質のPol-FCS計測は世界で初めて実現した物であった。また、並進拡散係数と回転拡散係数の比較から、細胞内構造や分子クラウディングの影響を検証できる可能性を示した。これらの成果を論文誌において発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度では、研究計画を前倒ししてGFPの生細胞内Pol-FCS計測と、それによる細胞内構造や分子クラウディングの影響の検証を行い、その成果を論文誌において発表できた。そのため、平成29年度以降も研究計画に沿って、残る計画であるPol-FCSによる凝集体形成初期過程解析の実証実験を遂行する。 当初の計画では、まずアルツハイマー症の発症に深く関係していると考えられているアミロイドβの凝集体や、大腸菌の細胞分裂時に繊維を形成するFtzZタンパク質の凝集過程の溶液内計測を予定していた。しかし連携研究者の現在の研究を鑑みて、測定対象を筋委縮性側索硬化症(ALS)に関連する凝集性タンパク質TDP43やSOD1に変更する。 まず、Neuro2A細胞にGFP標識を施した野生型TDP43やSOD1、およびそれらの病原性変異体を発現させ、そのライセート(細胞溶解液)のPol-FCS計測を行う。これらのタンパク質は、試薬MG132によってプロテアソーム活性を阻害すると凝集を開始することが知られており、MG132添加から細胞溶解までの時間を変えながら計測することで、in vitroでの凝集体初期過程の解析を目指す。予備実験として、MG132を添加していない状態で計測を行ったところ、暫定的な結果ではあるがMG132の添加前においてSOD1の野生型と変異型でその状態が異なることが確認された。 次に、生細胞中での解析を目指す。生細胞内計測は、より実際に近い状態での凝集体形成を観察できる点と、同じ細胞の中での凝集体成長過程を時間追跡可能となる点においてin vitro計測より優れている。これが実現されると、将来的に薬剤に対する凝集体のサイズや配向性の応答を細胞レベルで時間追跡するような解析が可能となり、治療薬の探索やALS発症のメカニズムの解明に寄与できると期待できる。
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Research Products
(4 results)