2017 Fiscal Year Research-status Report
ショウジョウバエ組織における生理的アポトーシス耐性
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16K07378
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷口 喜一郎 京都大学, 生命科学研究科, 特定助教 (20554174)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アポトーシス / アポトーシス耐性 / 染色体倍加 / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 附属腺・脂肪体・後腸におけるアポトーシス耐性 ショウジョウバエにおけるプログラム細胞死の一つであるアポトーシスは、RHG (reaper, hid, grim) 遺伝子群の転写誘導により生じる。一方で、附属腺・脂肪体・後腸といったアポトーシス耐性組織は、人為的なRHG強制発現においてもアポトーシスを生じない。申請者は、このアポトーシス耐性の要因の一つとして実行カスパーゼDcp-1遺伝子の転写抑制を見いだしている。今回、人為的にDcp-1を発現させることで、附属腺・脂肪体においてRHG応答性が生じることがわかった。一方で、後腸についてはDcp-1発現においてもRHG応答性は見られない。
2. 倍加異常の人為的誘導により生じる病理的アポトーシス耐性 がん組織などある種の病理組織はアポトーシス耐性を獲得することがある。申請者は、倍化異常 (>2N) により、病理的アポトーシス耐性が生じることを見いだしている。附属腺・脂肪体・後腸も倍加組織であることから、染色体倍数性によるアポトーシス耐性獲得には共通性がある可能性がある。しかしながら、人為的倍化組織では、Dcp-1遺伝子の発現低下は見られなかった。一方で、別の実行カスパーゼであるDrice遺伝子に発現低下が生じていた。また、アポトーシス抑制因子であるDIAPの発現上昇も確認できた。これらの結果は、生理的アポトーシス耐性 (附属腺・脂肪体・後腸) と病理的アポトーシス耐性 (異常倍加組織) では、その制御メカニズムが異なることを意味している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度の研究計画は、1) 附属腺・脂肪体・後腸におけるDcp-1抑制制御点の検証と、2) 正常発生における生理的アポトーシス耐性誘導因子の同定であった。1) においては、研究計画通りDcp-1抑制制御仮説を支持する十分な結果 (Dcp-1の人為的誘導によりRHG誘導性アポトーシスが回復する) が得られた。 一方で、2) におけいて重要なポイントとなる発生制御シグナルとアポトーシス耐性の検証において、仮説を支持するに十分な結果が得られなかった。具体的には、本研究の基本モデルとなる附属腺の発生シグナルとして知られている、Dppシグナル・Notchシグナルは、増殖に影響を与えるもののアポトーシス耐性に関与していないと考えられた。そのため、発生機序からのアポトーシス耐性の検証を優先するのではなく、病理的アポトーシス耐性の解析結果を優先しからアポトーシス耐性の本質に迫ることにした。そこで、平成30年度以降において予定していた、3) 倍加異常による病理的アポトーシス耐性の検証を前倒しでおこない、本研究目的へアプローチした。その結果、染色体倍加自体が、アポトーシス耐性をもたらす遺伝子発現変化をもたらす可能性や、生理的アポトーシス耐性との明確な違いが明らかになった。 以上のように、平成29年度の実験計画の一部を保留し、平成30年度の実験計画を前倒しするという計画変更が生じている。一方で、これらは生理的制御と病理的制御の解析のどちらを優先すべきかを考慮した結果であり、実験計画に滞りを生じさせるものではない。ただし、発生シグナルと細胞死耐性の仮説は再検証の必要があり、病理的制御の結果をもとに迅速な検証が望まれる。これらを考慮して、本研究計画は“やや遅れている”と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度において優先的な計画前倒しを行った、病理的アポトーシス耐性の解析を順次進めていく。まず、倍加異常において生じる、実行カスパーゼDriceの発現低下とアポトーシス阻害因子Diap1の発現上昇がアポトーシス耐性の直接的な原因であるかどうかを調べる。具体的には、人為的にDriceの発現誘導およびDiap1の発現抑制を行うことで、病理的なアポトーシス耐性が失われるかどうかを検証する。また、Diapの発現はがん抑制シグナルHippoにより抑制されていることが知られており、倍加異常にともなうDiapの発現上昇がHippoシグナルに起因するかを検証する。 つぎに、染色体倍加によりアポトーシス耐性獲得が生じる原因を明らかにする。まず、倍加異常細胞が正常な分化を行っているかについて各種分化マーカー (Wingless, Dpp, Hedgehog) を用いて調べる。ある種の分化異常が見られた場合 (上記因子の過剰発現など)、同様の分化異常を人為的に誘導することでアポトーシス耐性が生じるかについて調べる。また、倍加細胞では染色体状態の変化によりゲノム修飾に変化が生じている可能性も考えられる。そこで、倍加異常細胞において、ヘテロクロマチン構造を人為的に変化させ、アポトーシス耐性に変化が生じるかどうかを検証する。
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Research Products
(5 results)