2016 Fiscal Year Research-status Report
全組織イメージングとライブイメージングによるオジギソウの速い運動メカニズムの解析
Project/Area Number |
16K07411
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
真野 弘明 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 特別協力研究員 (80376558)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | オジギソウ / おじぎ運動 / 植物 / 運動 / 透明化 / 可視化 / 葉枕 / イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は、オジギソウ運動器官(葉枕)において運動時に生じる個々の細胞の形態変化を器官全体レベルで包括的に解明することにより、おじぎ運動のメカニズムを解明することを第一の目標とする。この目的を達成するために、まず「急速凍結置換法を用いた運動前後の器官の瞬時固定」および「植物組織の透明化手法を用いた組織深部観察」のための実験条件の最適化を行った。その過程で、申請者は「開いた状態で固定したオジギソウ葉枕が、染色・透明化の過程で自発的に閉じてしまう」という現象を見出した。これは、「組織レベルで蓄積された機械的弾性力が存在し、これがおじぎ運動に役割を果たす」という申請者の仮説を裏付ける結果である。一方で、この性質は「運動前後の変化を観察する」上での大きな困難となった。この困難を克服するために試行錯誤を行った結果、固定・染色・透明化の過程で用いる「水系溶媒」が自発運動の引き金になることを突き止めた。そこで申請者は、固定・染色・透明化のすべての過程において「水をいっさい用いない」実験手法を新たに開発し、細胞壁を可視化することによって運動前後の葉枕の内部構造を詳細に観察できるようにした。これらと並行して、申請者は得られた3次元画像から個々の細胞の形状を自動的に抽出・解析するプログラムの開発に着手し、現在もその開発を継続中である。開発途中のプログラムを用いた予備実験として、おじぎ運動の前後における小葉枕内の細胞の体積比較を行った。その結果、葉枕収縮側の運動細胞の体積(細胞壁に囲まれた領域の体積)は運動に伴い、最も変化の大きかった最外層において平均39%減少し、一方で非収縮側の運動細胞の体積は同じく最外層において平均18%増加することを見出した。これらの結果は、オジギソウ運動における細胞の体積変化を包括的かつ定量的に解析した初めての例であり、そのメカニズムの解明に大きく寄与するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画の進捗状況は、上述の「開いた状態で固定したオジギソウ葉枕が、染色・透明化の過程で自発的に閉じてしまう」という予想外の技術的困難に直面したものの、新規技術の開発によりその克服に成功しており、本年度の研究計画に沿っておおむね順調に進展している。一方で、申請者が研究実施前に提唱した「個々の細胞レベルで起こる比較的小さな体積変化が、細胞変形および細胞間隙の変化と組み合わさることで何倍にも増幅され、器官全体としての大きな変形・運動を引き起こす」という作業仮説に関しては、予備実験による運動細胞の体積変化の測定の結果、個々の細胞の収縮率が申請者の予想(最大10%程度)よりもはるかに高い値(39%)を示すことが明らかになり、仮説は否定される結果となった。結果自体は予想とは異なったものの、研究目標である「実測データに基づく仮説の検証」は達成されており、この点においても研究は順調に進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果により確立した観察手法を用い、引き続きオジギソウ葉枕の運動前後における観察・比較を行う。また、得られた3次元画像から個々の細胞形態を自動抽出・解析するプログラムのさらなる改良・発展を行い、体積以外の細胞変形の度合いや領域ごとの変化の違いなどをより詳細に解析できるようにする。また本年度の成果により、申請者のもうひとつの仮説である「組織レベルで蓄積された機械的弾性力が存在し、これがおじぎ運動に役割を果たす」ことへの肯定的な観察結果が得られたため、今後の研究においてはこの「機械的弾性力」と従来モデルの「イオンの流出による浸透現象」の双方について、おじぎ運動に対する寄与の割合を定量的に明らかにすることを目指す。これらの成果をまとめ、論文として発表を行うとともに、次年度以降の研究計画である「アクチン骨格の動態解析」および「カルシウム動態の解析」を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、まず本年度は実験部分において新規実験系の開発が主な作業となり、実験補助員の雇用で効率化できる要素が少なかったため、当該雇用経費が発生しなかった点があげられる。また、コンピューターを用いた計算部分においては、既存の解析ソフトウェアに申請者の要求を満たすものが存在せず、それらの購入費用等が発生しなかった点があげられる。その代替として申請者自らの手によるソフトウェアの開発を行ったが、これも本年度の段階では比較的小規模のシステムしか必要とせず、新規のコンピューター購入等も必要とならなかったため、結果として予算の使用が最低限に抑えられた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度の研究成果により、細胞形態の包括的3Dイメージングに関しては実験系がおおよそ確立されたため、以降の解析においては実験補助員を雇用することにより遂行のスピードアップを図る。また、コンピューター解析部分においては、解析の大規模化・精細化に伴ってより高性能なコンピューターを導入する必要性が生じる。さらに、次年度には得られた成果についての学会発表および論文投稿に関する費用が必要になる。本年度請求分から持ち越された分に関しては、これらの目的に研究費を使用する予定である。翌年度請求分の研究費に関しては、研究計画調書に記載の次年度以降の研究計画に基づいて使用する予定である。
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