2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K07424
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
吉国 通庸 九州大学, 農学研究院, 教授 (50210662)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ナマコ / 排卵誘発因子 / 生理活性物質 / 生殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、ナマコを用い、排卵現象のみを惹起する未知の排卵誘起因子及び卵成熟誘起因子の精製を目的とする。初年度に引き続き、精製用材料(配偶子最終成熟を起こした卵巣・精巣の培養液(生殖腺培養液))を集めることを第1の目標とした。マナマコは唐津漁協加部島支所に依頼し例年100-200匹を購入しているが、29年春の漁期は極度に不漁で、実験用マナマコを購入出来なかった(不良の原因は不明)。急遽、宗像漁協地島支所より40匹程度のマナマコを入手したが、当初に計画した個体数には不足であった。排卵誘起活性・卵成熟誘起活性共に、精巣・卵巣の両生殖腺から検出出来るため(28年度成果)、入手したナマコ全てを材料として両活性を含む“生殖腺培養液”を調製した。 生殖腺培養液を試料として、液体クロマトグラフィーによる卵成熟誘起活性および排卵誘起活性の分離・精製を試みた。両成分の活性は、マナマコ卵巣片中の卵母細胞の卵成熟誘起・排卵を指標にしたバイオアッセイ法で検出した。 排卵誘起活性は、Sephadex G-10では塩画分前に、Superdex 30では塩類の溶出位置付近に検出された。また、同活性は逆相HPLCで中程度のアセトニトリル濃度で溶出された。これらの事から、同活性成分は、低分子の極性成分(例えば、低分子のポリペプチドなど)と予想されるが、その単離・構造解析にはより多量の材料が必要である。 卵成熟誘起活性は、Superdex 30により分子量3000以上の画分に溶出されたが、濾胞付き卵母細胞や濾胞無し卵母細胞(裸の卵母細胞)への明確な作用は検定できておらず、別課題で解析している神経分泌性の産卵誘発因子である可能性も考えられる。しかし、他の動物の例からも、卵母細胞に直接作用する卵成熟誘起ホルモンが存在しないとは考えられず、本実験系では、同成分が微量過ぎる、又は化学的に不安定であることなどが予想された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
入手したマナマコを4ロットに分けて、切断刺激法(28年度成果)により生殖腺培養液を調製し、脱塩(Sephadex G-10)→ゲル濾過(Superdex 30pg)→HPLC(C18逆相)の3段階の液体クロマトグラフィーを実施した(4回)。内、3ロットは精巣培養液、1ロットは卵巣培養液であった。 Sepahdex G-10カラムにより、生殖腺培養液から除タンパク・脱塩すると共に酢酸アンモニウム緩衝液に置換した。排卵誘起活性、卵成熟誘起活性共に塩画分より前に溶出した。脱塩試料を凍結乾燥後、Superdex 30pgカラムでゲル濾過した。卵成熟誘起活性は分子量3000付近の画分に回収され、排卵誘起活性は塩画分から僅かに遅れた画分に掛けて回収された。卵成熟誘起活性は4ロットの内の2ロットでは検出出来なかったが、排卵誘起活性は4ロット全てで検出された。ロット間での卵成熟誘起活性の検出の有無の原因については、同活性の安定性・含量・アッセイに用いた卵巣の感受性など複数の原因が考えられるが、現時点ではいずれが主要因であるかは不明である。排卵誘起活性成分は比較的低分子量で、Superdex担体にごく僅かな吸着性を示した。 C18逆相HPLCでは、排卵誘起活性は20%アセトニトリル、卵成熟誘起活性は25-30%アセトニトリル濃度付近で溶出した。両者の間では、排卵誘起活性成分の方がより極性が高いと考えられる。いずれにしても、両画分共に多くの共雑成分を含むと思われ、分子構造解析には更なる分離・精製操作が必要である。 現在、別課題で、生殖腺を刺激し最終的に放卵・放精を誘起する神経ペプチドを解析している。同ペプチドは濾胞や卵母細胞には直接作用せず、卵巣内の未知組織に作用して卵成熟・排卵を誘起する。本課題で追跡している卵成熟誘起活性とHPLCで似た位置に溶出されるため、これらの同不同を確認する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
逆相HPLC後のシグナル強度の低さから、両活性成分の単離・構造解析には精製の材料となる生殖腺培養液を現状の数倍以上に増やす必要があると考えられる。しかし、昨今のマナマコの入手数の不安定さを考慮すれば、大量入手が可能なニセクロナマコ等を精製材料として検討する必要がある。また、ヒトデ等、他の棘皮動物でも同様の活性(排卵のみを誘発する)が見られるのかの試験も平行して実施することが好ましい。 C18逆相HPLCはトリフルオロ酢酸(TFA)存在下で行っているが、より精製度を上げるためには、リン酸緩衝液/アセトニトリル系など用いた異なる分離条件の追加の検討が必要であると考えている。排卵誘起活性成分は比較的高い極性を持つと思われることから、分離カラムとしてC30カラムなどの検討も効果的であるかも知れない。 研究期間があと1年となったことを踏まえ、卵成熟誘起活性は活性検出が不安定であることと別課題で研究中の活性分子との区別の必要が生じていることから、本課題では不適当であると判断し、追跡する活性を排卵誘発活性のみに絞ることとした。次年度では、排卵誘発活性の精製法の省力・最適化の検討を追加する。卵巣培養液の除タンパク(フローセル式限外ろ過)後、逆相クロマト用担体をバッチ法で用いて脱塩・濃縮を行った後、複数の逆相HPLCによる単離・精製を試みる。逆相HPLCによる精製がある程度進んだ段階で、活性画分に含まれる成分を質量分析により網羅的に構造解析する予定である。
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Causes of Carryover |
実験材料のマナマコは地元の漁協から購入しているが、29年春期のナマコ漁は極度の不漁で、当初予定した漁協からの購入はゼロであった。急遽、他の漁協から購入したが、当初予定した個体数には大きく届かず、その購入費用が余った形となった。 精製の出発材料である生殖腺培養液の大幅な増量が必要と考えられることから、使用しなかった経費は30年度でのナマコの買い増しに充てることとした。
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