2016 Fiscal Year Research-status Report
分布域が北上したダンダラテントウの遺伝的集団構造の解明
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16K07500
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Research Institution | Osaka Museum of Natural History |
Principal Investigator |
河上 康子 大阪市立自然史博物館, 学芸課, 外来研究員 (70748871)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ダンダラテントウ / 遺伝的集団構造 / 斑紋型多型 / 地理的変異 / 分布北上 / 気候温暖化 |
Outline of Annual Research Achievements |
野外調査・標本調査については、愛媛県松山市(6月15日)、香川県高松市(6月16-17日)、香川県小豆島町(6月17日)、福岡県福岡市(9月25-26日)、茨城県水戸市・大洗町・鹿嶋市(10月12-13日)、沖縄県宮古島市・那覇市(11月16-19日)において、遺伝子解析に用いるダンダラテントウの成虫サンプルの採集および、発生消長、寄主利用、成虫斑紋型の調査を行った。また福岡市出張の機会には、九州大学総合研究博物館において収蔵標本の調査をおこない、本種の斑紋多型の地理的変異について検討した。 本研究では、ダンダラテントウの分布地域においてどのように遺伝的集団構造が異なるかを解明する。そのために2016年度は、上記の出張に加えてこれまですでに得られている、44地点547個体の成虫サンプルのうち、埼玉県から沖縄県与那国島までの42地点385個体について、DNAの抽出、PCR増幅、およびPCR産物精製の実験をおこなった。このうち、19地点94個体についてシーケンスの外注をおこない、ミトコンドリアCOI領域約600塩基対の塩基配列を決定した。 研究成果の公表については、本研究に先立ちこれまでの研究で得られている、本種の生態的知見について公表した。学会発表では大阪個体群の発生消長と寄主利用(Kawakami et al.2016)について、論文執筆では大阪個体群での越冬・越夏後の出現タイミングの雌雄差について、および関西地方の気候温暖化が本種の夏季の活動に及ぼした影響について投稿をおこなった。後者については受理され印刷中である。 Kawakami Y, Yamazaki K, & K. Ohashi (投稿中) Protogyny after hibernation and aestivation in Cheilomenes sexmaculata (Coleoptera: Coccinellidae) in central Japan. European Journal of Entomology.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野外調査については、2016年度に採集調査をおこなったすべての地域で、目標である1地点10個体以上の成虫が得られ、また成虫・蛹・幼虫の発生消長、寄主植物、餌昆虫についてもそれぞれの地域集団での知見が得られた。一般に地域個体群の遺伝的集団構造を考察するためには、1地点あたり10-20個体の解析が望ましいとされている。また本種の分布北限地域と考えられる茨城県水戸市・大洗町・鹿嶋市では、本種を確認することができなかったため、Kawakami et al. 2014での標本調査において北限を確認した2000年以降、本種の分布は北上していないことが示唆された。 遺伝子解析については、2012年以降に採集した新しい標本については順調にDNAを抽出しPCR増幅をすることができた。2012年以前に採集したやや古い標本については、100%エタノール中に保存していたにもかかわらず、DNAの抽出が困難なサンプルもいくつかあった。シーケンスについては94個体のうち92個体で塩基配列が決定された。2個体は抽出したサンプルのDNA濃度が低いために塩基配列の読み取りが不可能であった。 研究成果の公表については、2回の学会発表をおこない、また論文執筆についても1本の原著の受理に加えて、1本が査読をへて2回の修正後の再提出の段階にあるため、受理の可能性は高いとおもわれる。以上の理由から、本研究はこれまでにおおむね順調に遂行されていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
野外調査については、引き続き遺伝子解析に用いる成虫サンプルの採集、本種の発生消長、寄主利用と成虫斑紋型の調査をおこなう。これまでに解析サンプルの得られていない、八重山諸島の小浜島、黒島、高知県、大分県、滋賀県などを中心に調査をおこなう予定である。また現在での分布の北限地域の特定のために関東地方での調査も継続する。 遺伝子解析については、引き続き採集したサンプルのDNA抽出とPCR増幅をおこない、シーケンスを外注してミトコンドリアCOI領域の塩基配列を決定する。各地域のデータが集積すれば、塩基配列データの解析をおこなう。本種は過去100年の気候温暖化で分布を北上し(Kawakami et al. 2014)、これに伴い体サイズが減少し、黒いタイプの斑紋型頻度が増加した(Kawakami et al. 2015)ことがわかっている。そこで古くから分布していた地域と、新たに分布拡大した地域とのハプロタイプ構成を比較して、これらの形質変化が地域集団の遺伝的集団構造の違いや、あるいは分布北上にともなう遺伝的分化と関連があるかどうかの検討をおこなう。 研究成果の公表については、本研究からこれまでに得られた予報的な知見の学会発表をおこなう予定である。あわせて本研究に先立ち得られている、本種の生態的知見についても引き続き論文執筆をおこない、本研究との統合的な考察への基盤とする予定である。
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Causes of Carryover |
「その他」に該当する、英文校閲の金額について、論文の文字数が予定よりも少なく収まったために、3.791円の次年度使用額が生じた。英文校閲は1単語あたり6円の単価を利用している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年4月に発注した、修正論文の英文校閲の見積もりが5.549円であるため、次年度使用額はこれに充当する予定である。
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Research Products
(3 results)