2017 Fiscal Year Research-status Report
分布域が北上したダンダラテントウの遺伝的集団構造の解明
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16K07500
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Research Institution | Osaka Museum of Natural History |
Principal Investigator |
河上 康子 大阪市立自然史博物館, 学芸課, 外来研究員 (70748871)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ダンダラテントウ / 遺伝的集団構造 / 斑紋型多型 / 地理的変異 / 分布北上 / 気候温暖化 |
Outline of Annual Research Achievements |
野外調査・標本調査については,鹿児島県奄美大島(4月13-15日),沖縄県石垣島・小浜島(4月19-21日),沖縄県西表島(5月24-26日),和歌山県御坊市(6月4日),大分県大分市(10月18-20日),沖縄県黒島(10月25-26日)において,ダンダラテントウの遺伝子解析に用いるダンダラテントウの成虫サンプルの採集および,発生消長,寄主利用,成虫斑紋型の調査を行った.また,11月8-9日に北海道大学総合博物館において収蔵標本の調査をおこない,本種の遺伝的集団構造の成り立ちに関わる斑紋多型の地理的変異について検討した. 本研究では,ダンダラテントウの遺伝的集団構造が分布地域内においてどのように異なるかを解明する.そのために2017年度は上記の出張に加えてこれまでにすでに得られている,埼玉県から沖縄県までの成虫サンプルのDNAの抽出,PCR増幅,およびPCR産物精製の実験をおこなった.188個体についてシーケンスの外注を行い,2016年度とあわせて48地点276個体のミトコンドリアCOI領域約600塩基対の塩基配列を部分的に決定した. 研究成果の公表については,本研究に先立ちこれまでの研究で明らかになった本種大阪個体群の夏季活動の経年変動について発表した.論文執筆では,ダンダラテントウの成虫が近年の気候温暖化により夏季の活動を制限された可能性(Kawakami & Yamazaki 2017)と,本種の大阪個体群の2004-2011年の野外データより,本種成虫は越冬・越夏後に雌が雄よりもはやく出現する傾向が見られた(Kawakami et al., 2017)ことを公表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野外調査については,2017年度に調査をおこなった地点について,悪天候のため資料の採集が困難であった大分市と沖縄県黒島を除いて,20個体以上のサンプルを得られた.また成虫・蛹・幼虫の発生消長,寄主植物,餌昆虫についてもそれぞれの地域集団での知見が得られた.北海道大学総合博物館での標本調査では,収蔵されているトカラ列島の標本について多くの個体を検視できた.トカラ列島では本種の斑紋型多型のうち,遺伝的にヘテロ型とされる個体が多く出現するため(Kawakami et al., 2013),本種の遺伝的集団構造を検討するうえで非常に有益な知見が得られた. 遺伝子解析については,48地点276個体についてまずフォワードのプライマーから読んだミトコンドリアCOIの塩基配列が,外注により順調に決定された.その結果から,本種のハプロタイプは大きく分けて2系統にわかれることが明らかになった. 研究成果の公表については,3回の学会発表をおこない,また論文執筆についても2本の原著が受理された.以上の理由から,本研究はこれまでおおむね順調に遂行されていると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
野外調査については,引き続き遺伝子解析に用いる成虫サンプルの採集,本種の発生消長,寄主利用と成虫斑紋型の調査をおこなう.これまでに解析サンプルの得られていない,沖縄県与那国島と沖縄県南大東島について調査をおこなう.これまでの研究結果により,本種のミトコンドリアCOIのハプロタイプは大きく分けて本州以北に多くみられる系統と,琉球以南に多くみられる系統のふたつに大別されることがわかった.そこで,南方からの系統を多くふくむと思われる与那国島について重点的に調査する.また,海洋島である南大東島のハプロタイプ構造を検討し,本種の移入に際して創始者効果や,その後の遺伝的浮動があったかどうかの検討をおこなう. 遺伝子解析については,これまでフォワードのプライマーを用いて外注したすべての個体について,リバースのプライマーを用いた外注をおこない,ミトコンドリアCOI領域の約600塩基対についての塩基配列を確定させる.それらの結果を用いて,本種の地域集団の遺伝的集団構造についての検討をすすめる.とくに,ハプロタイプのふたつの系統の由来,日本に進入してきた年代の推定や進入後の拡大過程についての検討をすすめる. 研究成果の公表については,本研究からこれまでに得られた予報的な知見の学会発表をおこなう予定である.あわせて本研究に先立ち得られている,本種の生態的知見についても引き続き論文執筆をおこない,本研究との統合的な考察への基盤とする予定である.
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Causes of Carryover |
「その他」に該当する英文校閲の金額について,論文の文字数が予定よりも少なく収まったために,3660円の次年度使用額が生じた.使用計画については,2017年4月に発注した論文別刷りの代金に充当する予定である.
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Research Products
(5 results)