2016 Fiscal Year Research-status Report
水銀耐性細菌を指標にする「細菌の分散と環境による選択」の検証
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16K07529
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
松井 一彰 近畿大学, 理工学部, 准教授 (40435532)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水銀耐性トランスポゾン / 細菌の分散 / everything is everywhere / 遺伝子水平伝播 / Bacilli |
Outline of Annual Research Achievements |
細菌の「地理的分布」と「環境による選択」の実態を3年間で実験的に検証するにあたり,1年目となる本年度は以下の項目について研究をすすめた. 1)細菌はあらゆる場所に分散しているのか?"everything is everywhere"仮説の検証 申請者と研究協力者のSilver教授の持つ土壌サンプルを対象に,バチラス属水銀耐性細菌が持つ水銀耐性トランスポゾンの分類と分布調査をおこなった.65株のバチラス属水銀耐性細菌を分離して調べたところ,12株が既知の水銀耐性トランスポゾン(TnMERI1)と類似の,水銀耐性トランスポゾンを保持していた.これらのトランスポゾンはさらに4タイプに区分され,そのうちの2タイプはこれまでに報告例の無いトランスポゾン構造であった.新しく見つかったトランスポゾンの1つであるTn6294は,これまで知られていたTnMERI1の原型(プロトタイプ)であると考えられた.遺伝子配列の比較から,TnMERI1はTn6294に複数の有機水銀分解酵素遺伝子(merB)が組み込まれて構築されたと予想される. またTn6294は,台湾で分離されたBacillus属細菌と,南極土壌より分離されたPaenibacillus属の間で共有されていることも,今回明らかになった.このように,同一の水銀耐性トランスポゾンが地理的に隔離された別種の細菌間で共有されている実例を,いくつか示す事が出来た.今回の発見は,細菌の遺伝子が遺伝子の水平伝播などを介して広く分布していることを示しており,細菌があらゆる場所に分散した結果,遺伝子が水平伝播した事を示唆している.尚,今年度の成果の一部は論文として取りまとめ,FEMS Microbiology Lettersに報告した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細菌の「地理的分布」と「環境による選択」の実態を3年間で実験的に検証するにあたり,1年目の主目的である「細菌はあらゆる場所に分散しているのか?"everything is everywhere"仮説の検証」については,おおむね順調な成果を得られた. 本年度は,申請者と研究協力者のSilver教授の持つ土壌サンプルを活用して,13カ国19箇所の土壌バチラス属水銀耐性細菌が持つ水銀耐性トランスポゾンの分類と分布調査を実施できた.Silver教授の研究室を訪問し,共に細菌の分離作業を進められたことが大きい.また細菌の水銀耐性トランスポゾンを調べたところ,2つの新しいタイプのトランスポゾンが見つかったこと.さらに新しく見つかったトランスポゾンの1つであるTn6294が,台湾で分離されたBacillus属細菌と,南極土壌より分離されたPaenibacillus属の間で共有されていることは,今回の幸運であった.この発見より,"everything is everywhere"仮説の一例を示す事が出来,成果の一部は論文として取りまとめることも出来たため,本年度の予定はおおむね達成できたと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
"but the environment selects" 仮説の検証:移入先の微生物群集にバチラス属水銀耐性細菌が定着できるかどうかについて,実験生態系を用いた検証をおこなう. 1) 水銀耐性細菌の定着を定量的に評価するために,定量PCRを用いた定量手法を開発する.特にバチラス属細菌が持つ水銀耐性遺伝子merAとmerB1を対象とした定量手法の確立を目指す. 2) 野外土壌を用いた実験生態系を用いて,定着に関わる環境因子を推定する. 3) 細菌間の相互作用の影響を考慮できる実験生態系の開発をすすめる. 本年度は,1)から順に研究を推進し,上記3)に取りかかることを目標とする.
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Causes of Carryover |
謝金雇用の3月分の請求が,翌年度(2017年4月)になるため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由より,2017年の3月分の謝金雇用の支払いとして,次年度使用額のほぼ全てを2017年4月に使用させていただく.
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