2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K07589
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
小原 均 千葉大学, 環境健康フィールド科学センター, 教授 (40160931)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 糖度分布 / スクロース / スクロースリン酸合成酵素 / 酵素活性 / 遺伝子発現 / アブシシン酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
リンゴ果実中に糖度分布が生じる内的原因を解明することを目的に、昨年度に主因として再確認された果実成熟期における‘ふじ’果実の果頂部と果梗部の部位の違いによるスクロース(Suc)蓄積量の違いの要因について、まず、昨年度に課題となったSuc代謝関連酵素の活性および遺伝子発現について、抽出および測定技術の習得を行った上で再調査を行った。その結果、Sucを分解する酸性インベルターゼ(AINV)、中性インベルターゼ(NINV)およびSuc合成酵素(SUSY)活性の推移を見ると、両INV活性はいずれの時期においても両部位ではほぼ同レベルで推移したが、SUSY活性は両部位でのSuc蓄積量の差が大きくなる10月下旬に果梗部で有意に高い値を示した。また、Sucを合成するSucリン酸合成酵素(SPS)の活性は調査期間中常に果梗部より果頂部で高い値を示す傾向にあり、特に10月下旬では果頂部で有意に高い値を示した。一方、Suc代謝関連酵素遺伝子のうち、MdSPS2およびMdSPS5遺伝子の発現量を見ると、MdSPS5遺伝子の発現量は9月下旬および10月中旬では果頂部で高い傾向が見られ、特に10月中旬では両遺伝子の発現量は共に果頂部において有意に高い値を示し、両遺伝子発現量の果頂部と果梗部との差異はSPS活性のそれと最も関連深かった。他方、収穫期の果実における両部位の果肉細胞の数と大きさを比較した結果、果梗部より果頂部での方が大きな果肉細胞が分布していた。また、両部位の内生エチレンおよびアブシシン酸(ABA)濃度の推移を見ると、内生エチレン濃度は両部位で差異が見られなかったが、内生ABA濃度は果頂部で10月中旬に急増してその後急減した。以上の結果より、リンゴ果実内に糖度分布が生じる内的原因として、部位の違いによるSPSによるSuc合成、果肉細胞の大きさおよびABA生合成の差異が関連深いと推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に課題となったSuc代謝関連酵素の活性測定法の技術習得および遺伝子発現解析のためのRNA抽出法の再検討を行った結果、当年度はSuc代謝関連酵素であるAINV、NINV、SPSおよびSUSY(分解および合成方向)の活性測定およびそれら酵素10遺伝子(MdCWINV2、MdCWINV3、MdAINV1、MdAINV2、MdNINV2、MdNINV3、MdSUSY5、MdSPS2、MdSPS5およびMdSPS6)の発現解析から、果実の部位の違いによるSuc蓄積量の差異は、SUSYおよび両INVによるSuc分解よりも、SPSによるSuc合成の差異が関係している可能性が高いことが明らかにできたと考えている。ただし、課題の一つとしていた糖トランスポーター遺伝子発現の解析には至っていないことから、適切なプライマーを探索して発現解析を行い、Suc蓄積との関係を考察する必要がある。一方、当年度計画したSuc蓄積と果肉細胞の大きさとの関係および成熟関連内生植物ホルモンとの関係を探るため、収穫期の果実の部位の違いによる果肉細胞の数と大きさの測定から、部位の違いによる果肉細胞の大きさの違いがSuc蓄積の多少と関連している可能性が考えられた。また、果実の部位の違いによる組織内エチレン濃度(内生エチレン濃度)およびエチレン前駆物質である1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸含量ならびに内生ABA濃度の推移の測定から、Suc蓄積と内生エチレンとの関連性は低く、内生ABAとの関連性は高いと考えられ、内生ABAがSuc合成に関わるSPSの活性および遺伝子発現量の上昇を誘導している可能性が考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況を踏まえ、再び課題としてしまった果実の部位の違いによる糖トランスポーター遺伝子発現の推移を明らかにするとともに、当初計画したSuc蓄積に関連深いと推察された成熟関連植物ホルモンであるABAを用いて果実成熟開始期に果実に処理を行い、ABA処理された果実の部位の違いによるSuc含量、SPS活性、MdSPS2およびMdSPS5遺伝子発現量、糖トランスポーター遺伝子発現量ならびに内生ABA濃度の推移からABAとの関連性を検証するとともに、3年間の結果を総合的に考察して、果実中に糖度分布が生じる内的原因を明らかにする。
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