2018 Fiscal Year Research-status Report
切り花の品質向上への応用を目指したピリジンジカルボン酸の多面的生理作用の吟味
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16K07604
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
佐藤 茂 龍谷大学, 農学部, 教授 (40108428)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 3-ピリジンカルボン酸 / 3-ピリジンカルボン酸アミド / ビタミンB3 / 開花促進 / カーネーション / バラ / 根伸長促進 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度に、スプレー(SP)カーネーションの開花促進作用を有するPDCAが「レタス、ニンジン、イネの幼苗の根の伸長を促進する」意外な作用を見出し、その作用の解析に集中した。その解析では、根の伸長促進作用は、ピリジン環の3位にカルボン酸が置換した構造[3-ピリジンカルボン酸(3-PCA)]が促進作用に必須であり、この化合物が最も作用が大きいことを明らかにした。平成29年度は、前年度の結果を踏まえて、SPカーネーションの開花に対する3-PCAの作用を検討した。その結果、(1)ピリジンカルボン酸類(PDCA及びPCAの異性体)の中で、3-PCAの開花促進作用が最も大きいこと、(2)3-PCAのアナログである3-PCAアミドも、3-PCAと同じく開花促進作用を有すること、を見出した。また、(3)3-PCA処理が、長期冷温貯蔵(4℃、4週間)したSPカーネーションにおける開花率の低下に拮抗して貯蔵後の開花率を高めることにより、切り花の観賞価値の低下を防止することを見出した。平成30年度は、カーネーションの老化の分子遺伝学解析を行い、(4)エチレン生合成系の鍵酵素であるACC合成酵素遺伝子の2つの変異体が、対立遺伝子であることを実証した。また、(5)2-PCAの開花促進・老化抑制作用を検討しカーネーション品種間で作用が異なることを見出した。カーネーション以外の花きにおいては、(6)コギク、輪ギク、デンファレ、ダリア、用いて試験したが、これらの園芸花きでは開花促進効果が見られなかった。他方、(7)バラにおいては、栽培品種(例えば、Rosita Vendera)によって顕著な開花促進作用が現れることを明らかにした。(8)ハス花蕾表面の黒化現象を、2,4-PDCAが阻害すること、及びこの阻害効果がSTS剤(エチレン作用阻害剤)との同時処理により、さらに高まることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1)3-PCA及び3-PCAアミドは、ビタミンB3であり、人畜に無害である。また、医療用やサプリメント用として多量に使用されているため安価である。このような化合物を、新しい切り花処理剤として開発することを提案した。(2)カーネーションは国内需要の40%(1億6000万本)が、南米のコロンビアから輸入されている。現在、別プロジェクトで、現行の航空機輸送から海上コンテナ輸送に運搬方法を替えて輸送コストを下げることが検討されており、その中で3-PCAを使用することを提案した。本研究で得られた成果は、実用化の可能性を明らかにした。(3)近年果実や花のエチレン生成阻害剤として提案された2-PCAの評価を行い、実用にならないことを明らかにして 3-PCAの優位性を示した。(4)開花促進作用を持つ3-PCAが、野菜やイネの幼苗の根の伸長を促進することを発見し、この化合物の花き園芸以外の分野への応用可能性を明らかにした。(5)2,4-PDCAのハス花蕾の黒化防止作用を明らかにし、花き園芸の多方面への応用可能性を示した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)当初、切り花に対する開花促進効果を、ピリジンジカルボン酸類(PDCA異性体)を用いて検討することを計画した。本研究で、ピリジンモノカルボン酸である 3-PCAが、最も効果が大きいことを明らかにした。この薬剤は、安全で低価格であり、将来の実用化にも適切である。今後は、切り花処理剤を製造・販売している民間会社と協働して、この薬剤の実用化を目指す。 (2)当初は、カーネーションに加えて多様な園芸花きを試験材料にすることを計画した。本研究では、コギク、輪ギク、デンファレ、ダリアを用いて試験したが、これらの花きでは顕著な開花促進効果が見られなかった。他方、バラにおいては、栽培品種(例えば、Rosita Vendera)によって顕著な開花促進作用が見られた。今後はバラに集中して試験を進める。さらには切り花の開花が難しいハスの開花促進について検討する。ハスは、国内では試験材料の入手が夏期の短期間に限られるため、タイ国の大学の研究者(すでに、共同研究の実績があり共著論文も発表している)と協働して研究を進める。(3)トルコギキョウの茎曲がり現象を、2,4-PDCAが防止することを明らかにしたが、効果の表れ方が不安定であった。他方、2-PCAの茎曲がり促進作用を明らかにしたので、茎曲がり阻害作用を有する薬剤の探索を、この薬剤のアナログを対象材料にして行う。
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Causes of Carryover |
当初研究計画の最終年度で、ピリジンジカルボン酸類の開花促進作用が顕著に現れるカーネーションにおいて、エチレン生合成経路の鍵酵素1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸合成酵素の遺伝子解析の必要が生じた。具体的な研究としては、遺伝子の単離と塩基配列の決定を行う。遺伝子単離のための薬品と機材の購入、および外注による塩基配列の解析のために支出する。
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