2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K07774
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村田 政穂 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任研究員 (20582381)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アポイカンバ / 外生菌根菌 / 絶滅危惧種 |
Outline of Annual Research Achievements |
樹木の養分の大部分は根に共生する外生菌根菌(以下、菌根菌)によって吸収されているため、樹木を保全するためには、樹木だけでなく土壌中の菌根菌を含めた対策をとることが必要である。本研究では、樹木の保全と保護に菌根菌を活用した新たな手法を開発することを念頭に、北海道アポイ岳にのみ分布する日本固有種で、絶滅危惧種に指定されているアポイカンバを一つのモデルケースとして基礎的な研究を行った。特に、アポイカンバ林分にどのような菌根菌が生息しているか、アポイカンバの実生にどのような菌根菌が感染するか、菌根菌が実生の成長をどの程度促進するのかを明らかにすることで、アポイカンバ保全ための基礎研究とするのが目的とし、「アポイカンバ残存林分内に生息する菌根菌群種の特徴」と「アポイカンバ実生に共生する菌根菌とその機能」の2つの実験を行った。 二つの実験ともに調査は北海道様似町アポイ岳のアポイカンバが自生する1林分で、アポイカンバの周辺の50地点で5×5×10cmの土壌ブロックを採取した。 「アポイカンバ残存林分内に生息する菌根菌群種の特徴」では、採取した土壌サンプルから樹木の根を取り出し、実体顕微鏡下で菌根の形態分類を行った。各サンプルで検出された菌根の形態タイプからDNAを抽出し、菌根菌のrDNAのITS領域の塩基配列を明らかにすることで、菌根菌種の同定を行った。その結果、アポイカンバ林分では、Cenococcum geophilum、ベニタケ科、イボタケ科、フウセンタケ科の菌根菌が高頻度で検出された。 「アポイカンバ実生に共生する菌根菌とその機能」では、サンプリングした土壌から根やリターなどの粗大有機物を取り除き、約4ヵ月間常温で風乾し、バイオアッセイに供試した。バイオアッセイは、チューブにサンプリングした土壌を入れ、アポイカンバまたはハイマツの種子を植えて現在育苗中である(約6ヵ月間育苗予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アポイ岳ですでにサンプリングを行い、調査実験結果はすでに解析を終了し、日本森林学会第128回大会にて発表をした。一部予定をしていた菌根菌の菌株の採集はできていないが、おおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.播種から六カ月後にバイオアッセイ実生を採取し、実生に形成した菌根の形態類別を行う。形態類別後の実生は地上部と地下部に分けて乾燥重量を計測する。2.菌根菌の同定:前年度に現地土壌から採取した菌根と同様の手法を用いて菌根菌種を同定する。3.データ解析:アポイカンバに感染した菌根菌の種組成と成木から得られたデータを比較し、埋土胞子に依存した菌種を特定する。アポイカンバとハイマツの結果を比較し、バイオアッセイに用いた樹種の影響を評価する。また、滅菌した土壌で育苗した対照区とバイオアッセイ区の成長差、感染した菌根菌種を総合的に解析し、実生の成長に及ぼす各種菌根菌の影響を明らかにする。これらの結果は論文として発表する。4.アポイカンバの実生の生育を促進する菌根菌の選抜のために、バイオアッセイ苗から菌根菌を分離・培養するとともに、アポイカンバ林分で発生している菌根菌の子実体を採取し、同様に分離・培養を行う。5.培養した菌根菌をアポイカンバの実生苗に接種をし、1年間育苗する。
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Causes of Carryover |
調査に同行予定であったメンバーが2名不参加となり、旅費や人件費が当初の予定より少なくなったことが理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用する研究費は菌根菌の種の同定のための消耗品費を中心とした物品費として1100,000円、調査地や学会発表のための旅費として100,000円を予定している。
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