2016 Fiscal Year Research-status Report
根の水分屈性能の改変による節水型植物成長制御法を開発するための基盤研究
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16K07955
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高橋 秀幸 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (70179513)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水分屈性 / 重力屈性 / 根 / シロイヌナズナ / イネ / ミヤコグサ / MIZ1 / オーキシン |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の根は水分勾配を感知して水分屈性を発現し、高水分側に伸長することで乾燥ストレスを回避・軽減できる。しかし、そのメカニズムの理解は乏しい。そこで本研究では、これまでにシロイヌナズナで見出された水分屈性制御因子の機能を解明し、イネ科植物やマメ科植物の水分屈性発現機構と比較解析することを目的としている。 平成28年度(初年度)は、これまでに見出したシロイヌナズナの水分屈性制御遺伝子MIZ1の機能を明らかにするために、水分屈性を欠損したmiz1突然変異体において組織特異的にMIZ1-GFPを発現させた形質転換体の水分屈性能を解析し、MIZ1を伸長領域の皮層で発現させた場合に水分屈性が回復し、根冠、分裂組織、表皮、内皮にMIZ1を発現させても水分屈性が回復しないことを見出した。これらの結果は、水分勾配の感受と水分屈性には皮層が重要で、根冠部を必要としないことを意味した。それを検証するためにレーザー照射で根冠および分裂組織を破壊した根の水分屈性能を調べた結果、根冠・分裂組織の機能しない根は重力屈性を正常に発現できないが、その水分屈性は正常であることがわかった。これらの結果から、根の水分屈性は従来知られている重力屈性とはまったく異なるメカニズムによって制御されることがわかった。 一方、重力屈性で重要な役割を果たす植物ホルモンのオーキシンは、シロイヌナズナの根の水分屈性をネガティブに制御することがわかっている。しかし、イネとミヤコグサの根の水分屈性とオーキシンの関係を薬理学的に解析した結果、イネ根の水分屈性は根冠を介しないオーキシン輸送とオーキシン応答を必要とし、シロイヌナズナ根の水分屈性はオーキシン輸送・既知のオーキシン応答に非依存的なメカニズムによって制御される可能性が見出された。これらの結果は、水分屈性の発現機構に種による多様性の存在することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに水分屈性に必須の分子としてMIZ1とMIZ2を見出している。それらの分子機能を理解するために、MIZ1が機能する細胞群を特定する実験では、そのための形質転換体を順調に作成することができて、当初の計画通りに実験をすすめることができた。その結果にレーザー照射実験による機能細胞の解析結果を加えて、インパクトの極めて大きい論文を作成することができ、それがNature Plants (2017)に受理された。また、miz1突然変異体は水分屈性を欠損するだけでなく、光屈性の異常を示す。当初の研究計画には含まれていなかったが、作成した形質転換体を用いて水分屈性と光屈性の発現に因果関係を解析し、MIZ1が光屈性制御分子とクロストークする可能性が示唆された。さらに、この手法をMIZ2/GNOMにも適用し、MIZ2-GFPをmiz2突然変異体に導入した形質転換体を作成し、それらの水分屈性、光屈性を解析した。さらに、イネとミヤコグサの根の水分屈性を比較解析し、植物ホルモンのオーキシンの果たす役割がイネ、ミヤコグサ、シロイヌナズナの間で異なることが強く示唆された。これまでに取得したmiz1突然変異体の表現型を部分的に回復させるmiz1抑圧突然変異体(mzp1)の原因遺伝子を同定するために、DNA-seqによる全ゲノム解析を行い、変異候補遺伝子を絞り込んだ。現在、その結果得られた当該候補遺伝子のT-DNA挿入系統の水分屈性能を解析している。水分屈性制御因子として機能する可能性が示唆されたグルタミン酸の作用を検証するための実験も継続中である。一方、MIZ1のイネやミヤコグサにおける相同遺伝子の機能解析については、準備が遅れ、次年度にずれ込む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
シロイヌナズナの根の水分屈性に必須のMIZ1が陸上植物に保存されていることはわかっているが、シロイヌナズナ以外の植物種でMIZ1ホモログ遺伝子がどのように機能するかはまったくわかっていない。そこでイネとミヤコグサのMIZ1相同遺伝子を同定することが重要で、これをひとつの軸にして研究を進める。また、miz1抑圧突然変異体mzp1の表現型(水分屈性回復程度)が部分的であり、変異候補遺伝子のT-DNA系統の表現型解析でも難航が予想される。したがって、現在すすめているT-DNA系統の解析結果をみながらmzp1解析の適否を判断する必要がある。 一方、オーキシンの水分屈性における関わり方がシロイヌナズナ、イネ、ミヤコグサで異なること、水分屈性の分子機構が重力屈性のそれと大きく異なることが明らかになったので、オーキシンのみならず、アブシジン酸、グルタミン酸およびカルシウムも含めて、水分屈性制御機構の種分化を念頭に、解析をすすめる必要がある。とくに、アブシジン酸とMIZ1は水分屈性を正に制御し、MIZ1の発現はアブシジン酸によって促進されることもわかっているので、その実体を明確にして、水分屈性制御因子のネットワークを明らかにしていく必要がある。また、英国のNottingham大学のグループとの共同研究で、アブシジン酸応答のシグナリング因子であるSnRK2.2が、MIZ1と同様に皮層で機能して水分屈性を制御することもシロイヌナズナで明らかにしており、それらの突然変異体を用いた解析を行うことで、MIZ1とアブシジン酸の関係に対する理解が進むと考えられる。さらに、根の水分屈性と重力屈性の制御機構の違いが明らかになったので、それらの比較解析によって、水分勾配の感受と水分屈性に特異的な成長制御のメカニズムを明らかにする必要がある。
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Causes of Carryover |
当該年度に予定していた研究計画の中で、イネとミヤコグサのMIZ1ホモログ遺伝子に関する実験の多くが次年度にずれ込む分、また、MIZ1と相互作用するタンパク質の同定実験の一部を実施できなかったため、そのための解析用物品費の予算を次年度に使用する必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度にずれ込んだイネとミヤコグサのMIZ1ホモログ遺伝子の解析実験とMIZ1と相互作用する候補タンパク質の結合関係の検証実験に使用する遺伝子・タンパク質解析用試薬の購入のために使用する必要がある。また、現在、これまでに得た成果で投稿論文を作成中で、その英文校閲および投稿・掲載料が当初見込んだ予算よりもオーバーするので、そのための費用にあてる。
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[Journal Article] The gravity-induced re-localization of auxin efflux carrier CsPIN1 in cucumber seedlings: spaceflight experiments for immunohistochemical microscopy2016
Author(s)
Yamazaki C, Fujii N, Miyazawa Y, Yamada M, Kasahara H, Osada I, Shimazu T, Fusejima Y, Higashimata A, Yamazaki T, Ishioka N, Takahashi H
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Journal Title
npj Microgravity
Volume: 2
Pages: 16030
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Presentation] A Pathway that Laterally Transports Auxin from the Upper Side to the Lower Side of the Transition Zone of Cucumber Seedlings via Endodermal Layers is Formed Due to Gravitstimulation2016
Author(s)
Nobuharu Fujii, Chiaki Yamazaki, Yutaka Miyazawa, Motoshi Kamada, Haruo Kasahara, Ikuko Osada, Toru Shimazu, Yasuo Fusejima, Akira Higashibata, Takashi Yamazaki, Noriaki Ishioka, Hideyuki Takahashi
Organizer
11th Asian Microgravity Symposium
Place of Presentation
北海道大学工学部(北海道、札幌市)
Year and Date
2016-10-25 – 2016-10-29
Int'l Joint Research
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