2017 Fiscal Year Research-status Report
カメにおける嗅覚受容体遺伝子の発現解析:脊椎動物の新しい嗅覚研究モデルの開発
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16K08069
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
中牟田 信明 岩手大学, 農学部, 准教授 (00305822)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 感覚器 / 嗅覚器 / 鋤鼻器 / 嗅細胞 / 嗅覚受容体 / 匂い受容体 / カメ / 爬虫類 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、アカミミガメの嗅覚器における嗅覚受容体遺伝子の発現を解析した。嗅覚受容体のうち匂い受容体(OR)はクラスI OR(魚型OR)とクラス II OR(哺乳類型OR)とに分類されるが、RT-PCR解析によって、アカミミガメの嗅覚器では上憩室上皮にクラス II OR、下憩室上皮にクラス I ORが発現していることを示す結果が得られた。さらに、in situハイブリダイゼーショ解析で各嗅覚受容体遺伝子を発現した細胞の分布を調べたところ、クラスI OR発現細胞が下憩室上皮、クラス II OR発現細胞が上憩室上皮で観察され、RT-PCRの結果が裏付けられた。初年度に実施したスッポンの研究結果と比較することにより、嗅覚受容体遺伝子の発現に関して、アカミミガメとスッポンの違いが明確になった。 また、カメの嗅覚系が生息環境に応じた多様性を示すことを確かめるため、光学および電子顕微鏡写真を用いてスッポンの嗅神経に含まれる軸索数を求め、上憩室上皮と下憩室上皮に分布する嗅細胞数を推定した。先行研究で示されているように、クサガメやイシガメなど、半水生のカメでは上憩室上皮と下憩室上皮にほぼ同数の嗅細胞が含まれているのと異なり、スッポンのように水中で過ごす時間の長いカメでは、下憩室上皮の方が上憩室上皮よりも多くの嗅細胞を含んでいることを示す結果が本研究で得られた。 以上のように、生息環境の異なるカメの嗅覚器を比較することによって、その多様性が明らかになり、上憩室上皮は空気中、下憩室上皮は水中で機能する嗅覚器であることが裏付けられた。さらに、上憩室上皮と下憩室上皮の機能分担について追及するため、完全水生のカメであるスッポンモドキの嗅覚系について形態学的特徴を調べたところ、それが単一の嗅覚系で構成されていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アカミミガメの嗅覚器における嗅覚受容体の発現については2017年10月にマレーシアのクチンで開催された第6回アジア獣医解剖学会で口頭発表した。学術雑誌への投稿論文は現在準備中である。 スッポンの嗅細胞数については2017年9月に鹿児島県鹿児島市で開催された日本獣医学会で口頭発表し、投稿論文が学術雑誌J. Vet. Med. Sci.へ掲載された。 スッポンモドキ嗅覚系の形態学的特徴については、2017年9月に青森県弘前市で開催された日本解剖学会東北・北海道連合支部学術集会で口頭発表した。学術雑誌への投稿論文は現在準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度に引き続き、クサガメ、アカミミガメ、カミツキガメについて、嗅覚受容体遺伝子のクローニングと塩基配列決定、および嗅覚器における発現解析を行う。嗅覚受容体と共役するGタンパク質の発現解析についても、29年度に引き続き実施する。 さらに時間的な余裕があれば、匂い受容体以外の嗅覚受容体とそれに共役するGタンパク質についても解析を行う。匂い受容体以外の嗅覚受容体としては、trace amine-associated receptor (TAAR)、1型および2型鋤鼻受容体(V1R、V2R)、formyl peptide receptor (FPR)などがあり、これらの受容体に共役するGタンパク質は、前述のG alpha olfの他、G alpha i-2や、G alpha oであることが知られている。 すべての実験が終了した後、スッポン、クサガメ、アカミミガメ、カミツキガメの4種の半水生カメにおいて嗅覚受容体を発現した細胞の分布を総括し、これらのカメを嗅覚研究モデルとして活用する基礎データを、相違点・類似点が明確になるように整理する。
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