2016 Fiscal Year Research-status Report
交尾によって変化するモンシロチョウの寄主探索行動と嗅受容機構の解明
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16K08099
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
大村 尚 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (60335635)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 毅 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 特別研究員 (30730626)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 植食性昆虫 / 寄主探索 / 植物揮発性成分 / 幼虫糞 / 触角感受性 / 交尾 / 嗅覚 / 化学分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)幼虫の糞の匂いをSPMEで捕集し、GC-MS分析したところ、ジメチルジスルフィドを主成分、アリルチオニトリル類をその他主要成分として同定した。これらはキャベツ新鮮葉からは検出されず、幼虫による芥子油配糖体の代謝産物と考えられた。 2)キャベツ新鮮葉より同定した15成分を混合して匂いブレンドを調製した。これを塗布して匂い付けした人工葉(処理区)と無香の人工葉(対照区)を同時にチョウに提示して、それぞれへの着陸数を比較した。処女雌は2つを区別しなかったが、交尾雌は処理区へ有意に多く着陸した。オルファクトメータを用いて、この匂いと無香の空気を同時にチョウに与えて定位方向を調べたところ、交尾雌のみ匂いのある方向を有意に選択した。以上の結果から、交尾後、雌は寄主探索に匂いを利用するようになることを明らかにした。 3)匂いブレンドの構成成分数を15→9→6と減らしていくと交尾雌による処理区への選好性が低下し、3成分ブレンドや単一成分で匂い付けすると交尾雌は処理区と対照区を区別できなくなった。これより、交尾雌が寄主探索に利用する匂いは複数成分で構成された混合物であり、組成が単純な匂いは寄主探索の指標として機能しないことがわかった。 4)15成分ブレンドを用いて雌の触角感受性をGC-EADで試験したところ、8成分に対して明瞭な触角応答が記録された。個々の成分に対する触角応答を羽化直後、1日、2日、4日後の処女雌で比較したが、加齢による有意な応答変化はみられなかった。また、羽化1日、2日、4日齢の処女雌と交尾雌で応答性を比較したが、交尾による有意な応答変化も観察されなかった。これより、触角での嗅覚感受性は加齢・交尾で殆ど変化しないことがわかった。 5)雄・処女雌・交尾雌それぞれ約25頭から触角を切除、RNA保存剤に封入した後に抽出を行ったが明瞭なバンドは確認できなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)キャベツ新鮮葉の匂いに対する雌の定位行動反応および触角の嗅覚感受性について一連の試験を終え、以下の結論を得た。①交尾により雌の行動が変化し、匂いを寄主探索に利用するようになる。②賦香による遠隔誘引効果は弱く、チョウは人工葉に接近してから匂いを利用すると考えられる。③特定の匂い成分に対する触角(末梢神経)の高い感受性は交尾後もほとんど変化しない。④寄主植物の匂いの効果を模倣するには、チョウが高い嗅覚感受性を示す複数の成分を混合することが必要である。⑤交尾による行動変化は、嗅覚情報を受容する末梢神経ではなく、情報を処理して行動に変換する中枢神経での変化に起因すると考えられる。これらの結果をまとめ、3月末に論文投稿した。 2)幼虫糞の匂いに対する雌の定位行動反応については予備試験を終え、交尾雌よりも処女雌において糞の匂いを忌避する傾向が強いことを確認している。現在、オルファクトメータを用いて本試験を行っている。糞の匂いに対する雌の触角応答は昨年11月にGC-EAD測定を試みたが、明瞭な結果を得ることができなかった。化学分析により、糞の匂いの定性的なプロファイルは得られているが、個々の成分を精密に定量するまでには至っていない。 3)触角で発現する遺伝子の解析について、使用したサンプルからDNAは抽出できているが、mRNAの収量が極めて低く計画が遅れている。この原因として、①そもそもモンシロチョウの触角にはmRNAが多量に存在しない、②採取地の広島から東京への輸送の状態が好ましくなかった、の2つの可能性を考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、①幼虫糞の匂いに対する雌の反応、②触角で発現する遺伝子解析、の2項目を中心に研究を進める。 項目①について。処女雌・交尾雌の寄主探索に糞の匂いが及ぼす影響について、現在実施している本試験を完了させる。糞の匂いについて化学分析を再度行い、各成分の量的プロファイルを確定する。糞の匂いの主成分であるジメチルジスルフィドに着目し、その標品を用いて、処女雌・交尾雌に対する忌避効果の可能性を検証する。糞の匂いに対するGC-EAD試験を実施し、雌が高い嗅覚感受性を示す成分をスクリーニングする。 項目②について。mRNAの抽出実験条件を見直し、再度サンプリングを行う。予備試験として触角あたりのmRNA量を見積もるため、少数のサンプル(10頭程度)から、RNA保存剤に封じることなくすぐにRNA抽出を試みる。また、大量のサンプル(100頭程度)を確保し、触角の切除からRNA抽出までを従来の1週間から2,3日に短縮することで改良を図る。こうして抽出されたtotal RNAを大規模シークエンスし、リアルタイムPCRで雌雄差、組織間、交尾経験の有無で発現量の変化を調査する予定である。他のチョウ目昆虫で報告されている匂い結合たんぱく質(OBP)や、フェロモン結合たんぱく質(PBP)をコードする遺伝子については特に注目する。
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Research Products
(2 results)