2017 Fiscal Year Research-status Report
交尾によって変化するモンシロチョウの寄主探索行動と嗅受容機構の解明
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16K08099
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
大村 尚 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (60335635)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 毅 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (30730626)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 植食性昆虫 / 寄主探索 / 植物揮発性成分 / 幼虫糞 / 触角感受性 / 交尾 / 嗅覚 / 化学分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)キャベツ新鮮葉の匂いに対する雌の定位行動および触角感受性に関する追加試験を行い、日齢が同じ処女雌と比較して、植物に対する雌の定位・探索行動は交尾後すみやかに活性化されるが、触角感受性はほとんど変化しないことを明らかにした。これらの結果を加筆修正した投稿論文はJ. Comp. Physiol. A誌に登載された。 2)オルファクトメータをもちいた成虫の二選択試験を実施し、幼虫糞の匂いが雌の定位行動に及ぼす影響を調べた。6種類の試験結果から、①交尾経験の有無にかかわらず無香の対照空気流と比較して雌は幼虫糞の匂いを忌避する、②処女雌・交尾雌ともに幼虫糞の主要な匂い成分であるジメチルジスルフィド(DMDS)に対して忌避性を示す、③幼虫糞の匂いにキャベツ新鮮葉の匂いを共存させると幼虫糞の匂いに対する雌成虫の忌避性が低下する、ことを明らかにした。 3)幼虫糞から所定時間に揮発するDMDS量を見積もるため、活性炭吸着管をもちいて幼虫糞1.8gから揮発する匂いをヘッドスペース法で捕集し、GC-MS分析を行った。その結果、糞1gから1時間当たりに揮発するDMDS量は約2ngであることがわかった。 4)広島県にて野外採集および室内飼育で得た雌雄成虫333個体より触角を切除し、性別毎に複数のサンプルを調製した(サンプル辺りの触角最大本数94本)。これらのサンプルからRNA抽出を試みたが、いずれからも十分なRNA量は抽出できなかった。一方、東京都で野外採集した雌雄成虫より切除した脚部からは、トータルRNAが抽出できた。この脚部より抽出したRNAよりライブラリーを作成し、double sex (雌雄)とActin, Tubulin, NADPHの配列情報を遺伝子データベースに登録し公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)キャベツ新鮮葉の匂いに対する試験は、計画通り進捗し、結果を査読付き学術論文として報告した。 2)幼虫糞の匂いに対する雌の行動試験は、植物モデルをもちいた室内試験も実施していたが、投稿論文に対する査読者のコメントを受け、オルファクトメータによる行動試験に一本化した。進捗は若干遅れており、予定していた試験項目の6割程度しか完了できていない。 3)糞の匂いを活性炭吸着管で捕集し調製した複数の匂いサンプルをもちいて雌の触角応答をGC-EADで測定したが、いずれも明瞭な結果を得ることができなかった。同サンプルはGC-MSによる定性・定量が可能であったにもかかわらず、雌の触角応答を誘導するには匂い成分の濃度が低すぎると推察される。このため、糞の匂いから雌が強い感受性を示す成分をスクリーニングすることをあきらめ、匂いの主要成分でかつ標品が容易に入手できるDMDSを生物試験にもちいることにした。 4)これまでに、モンシロチョウの触角よりRNAシークエンスに耐える十分な量のRNAを抽出できていない。そこでこの原因を解明するために、2017年度5月に東京都府中市東京農工大農学部キャンパス内の圃場に生息するモンシロチョウの雌雄約80頭の触角に加え、RNA抽出の陽性対照として雌雄30頭分の脚部よりそれぞれRNAを抽出した。吸光度測定により、雌雄の触角からRNAがわずかのみ抽出される一方、脚部から大規模シークエンスに耐える量のRNAを獲得した。このことから、本種の触角では交尾経験に拘わらず、遺伝子の発現量が低い可能性が高いと考えた。そこで最終年度は、新たにRNA回収効率改善のためにポリトロンを導入し組織の徹底的な破砕に努める
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Strategy for Future Research Activity |
1)幼虫糞の匂いの影響を精査するためオルファクトメータをもちいた生物試験を進める。すでに実施している6種の試験については試行回数を増やして再現性を確認するとともに、新たに3種類の試験を実施し、①DMDSによる忌避性、②キャベツ新鮮葉の匂いを共存させたときの糞やDMDSによる忌避性の変化、③幼虫が食害したキャベツから放出される誘導性揮発性成分による影響、をそれぞれ検証する。 2)網室にキャベツの新鮮株を設置した半野外条件で行動試験を実施し、幼虫糞やDMDSによる忌避効果を確認する。 3)GC-EADにより、①DMDSに対する雌の触角応答、②キャベツ新鮮葉の匂いの人工ブレンドにDMDSを添加したときの触角応答の変化をそれぞれ調べる。これらの結果から、DMDSが触角において他の匂い成分の受容を妨害(マスク)する可能性を検証する。 4)過年度までのモンシロチョウのメス触角を用いたGC-EAD試験において、本種の寄主植物であるキャベツに含まれる揮発成分のうちヘッドスペースで捕集できる成分に関しては、交尾前後で目立って触角の応答強度が上げたリガンド成分は限られていた。一方、交尾の経験は寄主植物キャベツ葉への着陸頻度を有意に増加させた。この結果を踏まえて、最終年度はまずは触角のみならず、頭部のRNAシークエンスも行ない、交尾後にメスの産卵行動を活性化する遺伝因子の探索を目指す。また、目的因子が低分子であることも想定し、交尾前後での雌雄の触角、頭部、血液タンパク質の電気泳動比較、LC, GCによる低分子の比較解析を行なう。
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Research Products
(2 results)