2017 Fiscal Year Research-status Report
腸組織のKLF蛋白複合体の解明と蛋白間相互作用を抑制する新規大腸癌治療薬の開発
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16K08718
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
仲矢 丈雄 自治医科大学, 医学部, 講師 (80512277)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 大腸癌 / 癌分子創薬 / KLF5 / 蛋白間相互作用阻害薬 / 癌選択的抑制 / 転写因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
私達は、KLF5が腸上皮幹細胞からの腫瘍形成に必須であること、ヒト大腸癌でKLF5の発現が上昇しKLF5を含む遺伝子座のゲノム増幅が起こることを解明した(Cancer Res 2014)。この成果はKLF5が大腸癌治療の有望な分子標的であることを示す。しかし、KLFは立体構造が未解明な天然変性蛋白で、立体構造に基づく阻害薬開発ができない。このため、KLFに対する阻害薬開発は困難であった。 そこで、私達は独自の方法で困難を克服し、KLF5の蛋白間相互作用を阻害すると予想される低分子化合物による新しい抗癌薬の分子創薬を試みた。その結果、私達は、KLF5阻害化合物が、ヒト大腸正常細胞を傷害せずヒト大腸癌細胞を選択的に抑制することを見出した。また、本化合物が大腸癌細胞ではKLF5などの蛋白量を抑制するが、ヒト大腸正常細胞ではこれらの蛋白量を抑制しないことを見出した。また、化学構造を系統的に変化させた化合物を合成し、化合物の化学構造と腫瘍細胞抑制能の間に構造活性相関があることも見出した。 2017年度は、本化合物が、ヌードマウスに移植したヒト大腸癌細胞を抑制しin vivoでも腫瘍抑制能を示すことを新たに解明した。また、構造活性相関に基づく新たな化合物合成を行い、腫瘍抑制能の高い化合物を新たに見出した。さらに、本化合物が、KLF5とb-Catenin等の蛋白間相互作用を阻害することなど分子作用機構の解明が進んだ。 私達は、KLF5阻害化合物が心不全モデルマウスの病態を改善することも見出した。ここから、本化合物は癌に加え循環器疾患など新たな分子創薬に発展する可能性が高い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
In vivoでの薬効評価、分子作用機構解明などおおむね順調に進んでいる。 我々は、癌の病態形成におけるKLF5の分子機能について研究を続けてきた。その中で、我々の手で解明したKLF5の分子機構を新たな治療薬開発への展開を目指してきた。しかしKLF5は立体構造の解かれていない天然変性蛋白であり、かつ主に核に存在する転写因子であるために薬剤の開発は困難だった。今回これらの困難を克服するために、独自の計算でKLF5阻害薬を分子設計し、NC化合物の新規合成を行った。NC化合物は当初の期待通り抗癌薬として作用することが示されたが、これに加えて同化合物が、大動脈縮窄による心不全に対しても心機能を改善することを見出した。これはKLF5阻害薬が実際に癌、心不全等の治療薬になりうることを実証した初めての結果であり、予想以上の成果と考えている。 KLF5と同様に立体構造解明がなされていないが、重要な機能をもつ天然変性蛋白は数多い。このためこれらの因子を標的とした分子創薬は難航しており、癌などの創薬研究の重要な課題となっている。我々の研究成果は、KLF5のみならず、他の多くの疾患原因因子を標的にした分子創薬に応用可能であり、これからの展開が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、KLF5阻害化合物の分子作用機構解明、in vivoでの抗腫瘍能評価、化合物改良を進める。 NC化合物は、KLF5といくつかの機能蛋白(βカテニンや胎児型ミオシンなど)との結合を阻害し、キナーゼXの酵素活性を抑制する。しかし、実際にこれらの分子との結合阻害がNC化合物による増殖抑制効果の本態であるのか、不明な点が多く残されている。 とくに生化学的な解析により、KLF5のリン酸化やユビキチン化に関わる蛋白とKLF5との相互作用、さらにNC化合物による阻害作用について検討する。 KLF5とこれを修飾する機能蛋白との相互作用に対するNC化合物の阻害作用が見出されれば、KLF5複合体の結晶化を進める。またKLF5阻害アッセイ系を確立して、NC化合物の改良と新規化合物のスクリーニングを行う。
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Causes of Carryover |
2018年度にマウス組織からの蛋白複合体解析、in vivoでのKLF5阻害薬の薬効評価等に、多くの研究資金を要することが予想されている。このため、本年度(2017年度)は次年度(2018年度)使用が生じた。2018年度は、上述のように、マウス組織からのKLF蛋白複合体解析、in vivoでのKLF5阻害薬の薬効評価とそれに基づく化合物改良、in vitroとin vivoでのKLF5阻害薬の分子作用機構の解明に研究費を使用する予定である。
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Research Products
(5 results)