2017 Fiscal Year Research-status Report
Is viral infection involved in ALS onset?
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16K08812
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
福士 雅也 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 助教 (50313515)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川上 秀史 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 教授 (70253060)
外丸 祐介 広島大学, 自然科学研究支援開発センター, 教授 (90309352)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ウイルス感染 / 筋萎縮性側索硬化症(ALS) / 発症メカニズム / インターフェロン・ベータ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「ウイルス感染は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症に関与するか?」と題して研究を進めている。ALSは、運動ニューロン(運動の指令を大脳から筋肉まで伝える神経)が選択的に変性・脱落し、その結果、筋肉が動かなくなり、2~5年で呼吸筋麻痺により死亡する。現在、日本では約1万人の患者がいるものの、有効な治療法は確立されていない。我々は、これまでにオプチニューリンがALSの原因遺伝子であることを突き止めた(Nature, 2010)。さらに、オプチニューリンが、インターフェロン・ベータ(IFNb:ウイルス感染時、宿主から産生される抗ウイルス因子。自然免疫の中心的な役割を担う)の産生に関与することを報告した(Neuroscience Letters, 2011)。 これら先行研究に基づき、本研究では「ALSにおける運動ニューロン変性の原因が、ウイルス感染ではなかろうか」と仮説を立て進めている。本研究では、昨年度までに以下の点を明らかにした。 ①培養細胞株におけるウイルス感染では、オプチニューリン過剰発現下でIFNb量が低下、オプチニューリン発現抑制下でIFNb量が増加すること。②マウス感染実験では、オプチニューリン・ノックアウトマウスはコントロール野生型マウスより生存率が高いこと。③オプチニューリン変異ALS患者細胞では、ウイルス感染時、IFNb量が健常人コントロール細胞よりも増加すること。 これらの結果を踏まえ、当該年度(平成29年度)は以下の点を検討した。 ①マウス感染実験において、オプチニューリン・ノックアウトマウスの生存率が高い理由。②オプチニューリン変異ALS患者細胞で観察される現象が、オプチニューリン以外のALSにも共通してみられるか?③ウイルス感染時のIFNb量増加の分子メカニズム。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体的には概ね順調に進んでいるが、実験項目によっては、予想以上に時間を費やしたもの、期待していた結果と異なるものがあった。以下に具体的に述べる。 ①マウス感染実験において、オプチニューリン・ノックアウトマウスの生存率が高い理由。→ 感染症では、一般的に、生存率は体内病原体量に比例する。このため、マウス体内の病原体量を検討した。実験を行った3種全ての病原体において、本マウスの方が、野生型マウスより病原体量が少なかった。次にそのメカニズムを検討した。昨年までのインビトロ実験で、オプチニューリン非存在下ではウイルス感染によるIFNb産生が多かった。IFNbはウイルス増殖を抑制することが知られていることから、感染時の本マウス体内のIFNb量を検討した。すると、1つの病原体では、IFNb量が野生型マウスより多かった。これにより、本マウスの感染抵抗性はIFNb量増加によるものと判明した。しかし、残り2つの病原体については、IFNb量は野生型マウスと同程度だった。この実験では条件を変えるなどして長期間費やしたが差は見えてこなかった。その理由として、『差』が小さく、マウス実験の“バラツキ”の中に隠れて見えてこないのだろうと考えている。 ②オプチニューリン変異ALS患者細胞で観察される現象が、オプチニューリン以外のALSにも共通してみられるか? → 昨年までに、オプチニューリン変異ALS患者細胞ではウイルス感染時IFNb量が健常人コントロール細胞よりも増加することを発見した。当該年度は、オプチニューリンが関連しないALSで検討したが、健常人細胞よりIFNb量が多くなることは無かった。 ③ウイルス感染時のIFNb量増加の分子メカニズム。→ オプチニューリンはオートファジー関連分子であることから、オートファジーに着目して検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度及び29年度の研究成果より、「オプチニューリン非存在下では、ウイルス感染によるIFNb産生が、コントロールより多くなる」ことが判った。そして、この現象は、培養細胞株、ノックアウトマウス、オプチニューリン関連ALS患者細胞の3者で共通していることが判った。インビトロとインビボなど異なる実験系で一貫して同じ現象が見られていることから、この現象は正しい生命現象を捕らえていると思われる。今後は、この現象が引き起こされる分子メカニズムを明らかにする予定である。その一つの切り口として『オートファジー』に着目している。なぜなら、オプチニューリンはオートファジー・レセプターとして働く事が報告されている(Wild et al, Science, 2011)からである。これまで、「オプチニューリンとオートファジー」あるいは「オプチニューリンとIFNb」はそれぞれ別個に語られてきた。また、「IFNbとオートファジー」の関連を明らかにした論文も複数あることから、「オプチニューリン」「IFNb」「オートファジー」の3者をつなげて考えるのは、それほど無理はないと考えている。しかし、現時点では、この3者の間にはまだ少し論理的飛躍が存在する。今後この間を埋めるピースを実験的に証明していく必要がある。 また、ALSの原因である神経細胞変性は、オートファジーとの関連で語られることも多い。「オプチニューリン」「IFNb」「オートファジー」のつながりに加え、「神経変性」を証明することができれば、ALS研究のブレークスルーとなるに違いない。さらに、我々は既にオプチニューリン・ノックアウトマウスを有していることから、生体内での神経変性を検討することができる。マウスでヒトALSを再現できれば、ALSの予防や、エビデンスに基づいた新しい治療法の開発、さらには、新規薬剤の開発に発展させることができる。
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Causes of Carryover |
当該年度(平成29年度)は、消耗品費はほぼ予定していた通りであった。しかし、旅費・謝金・その他の項目で、当初の見積もりよりも低かったため、残額を次年度へ回すことにした。上記の項目で当初予定額より低かった理由として、学会発表及び論文投稿を控えたことが挙げられる。本実験計画のマウス実験では、マウスを自家繁殖し、感染させる。このため、多くのマウスを飼育繁殖させ、感染実験では20日~30日間、毎日の観察が必要である。このため、学会発表などで不在にする期間を最小限にしたかったため、当初予定より学会発表の回数を減らした。このため当初の使用見積りよりも少額となった。この差額については、次年度(平成30年度)と合わせて使用するが、主に、学会発表のための旅費、研究成果発表の論文作成のための英文校正の費用、ならびに雑誌の掲載料として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)