2016 Fiscal Year Research-status Report
代理人指名を第一とするALS(筋委縮性側索硬化症)事前指示の普及に関する研究
Project/Area Number |
16K08858
|
Research Institution | Tohoku Medical and Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
伊藤 道哉 東北医科薬科大学, 医学部, 准教授 (70221083)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 筋萎縮性側索硬化症 / 代理人指名 / ALP(アドバンス ライフ プラニング / 事前指示書 / TLS / コミュニケーション支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
ALS(筋萎縮性側索硬化症)における事前指示は、日本神経学会「ALS診療ガイドライン」2013でも推奨されているが、事前指示の作成・活用の実態は明らかではない。本研究では、進行するコミュニケーション障害、認知行動障害等に備えて、家族、後見人、法定代理人など「代理人」指名を第一とするより実効性のある、ALS事前指示のあり方、ALSモデルを検討することを目的とする。 初年度は、TLS等コミュニケーション困難にいたるALS患者の実態を明らかにするとともに、代理人指名等、事前指示の実態について明らかにする。 日本ALS協会患者会員全員を対象とした郵送調査を、東北医科薬科大学医学部倫理委員会の承認(承認番号2016-11-1)を受け実施した。連結不可能匿名化データの解析を、東北医科薬科大学医学部において行った。有効回答率28.8%。記入者は、家族が81%、本人が13%、その他が6%。意思伝達の状況であるが、TLS、全くコミュニケーションがとれない状況(ステージ5)にあるとの回答は約14%であった。 アドバンス ライフ プラニング(ALP、ご本人、ご家族、医療・ケア関係者が一体となって、価値観や人生観を尊重しながら、受けたい医療やケア、住まい方、人生設計について話し合い、ご本人の生き方を共有するプロセス)や、事前指示(前もって方針を話し合って、医療・ケアについて、ご本人の希望を明示すること)等、これからの備えについて、実際に「行っている」割合は、代理人の指名16.7%、口頭事前指示18.8%、事前指示書(文書)12.1%、アドバンス ライフ プラニング8.0%であった。「聞いたことがない」「話し合いをしたことがない」を合わせた割合は、代理人の指名68.0%、口頭事前指示54.9%、事前指示書(文書)67.7%、アドバンス ライフ プラニング77.7%であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ALS患者に対する調査により、全く意思伝達ができない状況、TLSは14%ほどであり、2013年調査時の約10%よりは増えているものの、多くの患者は、コミュニケーションの支援を受ければ、自分の受けたい医療・ケアについて話し合いの機会を持てる可能性がある。しかしながら、調査結果は、「聞いたことがない」「話し合いをしたことがない」を合わせた割合が、代理人の指名68.0%、口頭事前指示54.9%、事前指示書(文書)67.7%、アドバンス ライフ プラニング77.7%と高い割合を占めていた。そこで、いきなり、事前指示に関するひな形を示して、利用を勧めることは、患者家族の反発を招く可能性があると判断した。 事実、2017年京都市が推奨し配布した「事前指示書」に関しては、日本ALS協会近畿ブロック代表らが、京都市に対し抗議し、「事前指示書」の撤回を迫る状況となっている。伊藤は、京都市に出張し、日本ALS協会近畿ブロック代表が抗議を行ったいきさつについて詳細な聞き取りを行うとともに、京都市において、事前指示の話し合いを重ねることを診療で実践している在宅医師への聞き取りを行った。聞き取り調査から、医療のみならず、介護、福祉全体の、生活支援の情報について、十分に知らされないままに、意思決定をせかされる状況が背景にあり、生きるための手段の提示が具体的に明示されないで、積極的な生き方が選べない書式を一方的に行政が推奨することへの不信感があることが分かった。そこで、当初計画の、代理人指名を第一とするALS事前指示について、ダウンロード可能なフォーマットをウエッブ上に作成する前に、代理人指名を具体的に進めるための手順をわかりやすく示す方法について、ALS診療に経験の深い臨床医、難病医療専門員、有識者、当事者と検討を重ねることとした。
|
Strategy for Future Research Activity |
代理人指名を具体的に進めるための手順をわかりやすく示す方法について、ALS診療に経験の深い臨床医、難病医療専門員、有識者、当事者と慎重に検討を重ね、代理人指名を第一とする内容指示を含んだ新たなフォーマットを作成し、 ALS当事者に試用していただく。 次に、代理人指名を第一とするALS事前指示モデルの精緻化する。ALS事前指示モデル案について、実際に患者・家族に使用していただき、代理人指名を第一とするALS事前指示モデルのメリット・デメリットを評価する。調査に協力の意向を示し、連絡先を明示した日本ALS協会患者・家族会員約200名 (2008年調査から3割程度の協力が得られると推計)に対し 匿名性、任意性を担保した評価調査を実施する。また、調査結果を活用した、ALS事前指示モデルをブラッシュアップし完成させる。 完成版を患者会ホームページに掲載、活用していただくとともに、立岩真也立命館大学教授らの協力のもと、評価のモニタリングを続行する。ALSに精通した医師、看護職、介護職各100名、生命倫理に詳しい法律家 (日本生命倫理学会会員の法律家)100名対象に、本モデルの評価調査を行う。 なお、研究が当初計画どおりに進まない時の対応としては、代理人指名を第一とするALS事前指示(ウエッブ)モデルについて、オンライン登録活用の割合がかなり低いと判断され、実効性に疑いが生じた場合、日本ALS協会、有識者と協議して、海外の患者会サイトも参考にしつつ、紙媒体の普及についても検討する。また、研究代表者が、転勤等で移動しても本研究が続行できるようサーバー等を東北医科薬科大学以外に確保することを検討する。
|
Causes of Carryover |
患者に対する調査費用、調査結果の入力費用の支出が当初予算より少なかったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
有識者、当事者との打ち合わせ旅費に充てる。
|
Research Products
(8 results)