2017 Fiscal Year Research-status Report
疼痛の制御機構における生体膜上の糖、シアル酸の機能解析
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16K08995
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
渡辺 俊 北里大学, 薬学部, 助教 (50415337)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | シアル酸 / 疼痛 / 炎症性疼痛 / ガングリオシド / 糖脂質 / アミノ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は炎症が生じている皮膚における神経線維の形態を観察した。炎症が生じると表皮内の神経線維量が増大していくことが知られているが、これまでの研究で鎮痛効果を有することが明らかとなったシアル酸分解酵素の投与により、神経線維の形態が変化することを見出した。そのため、この形態変化により機械的刺激に対する痛みの感受性が低下していることが推測された。なお、後根神経節神経細胞由来の細胞株を神経突起伸長させた後にシアル酸分解酵素を作用させると、伸長の鈍化(或いは退縮)が認められたため、神経細胞上のシアル酸化合物に作用している可能性が考えられた。一方、無処置マウスの足底へガングリオシド(シアル酸含有糖脂質)を投与することで痛みが引き起こされることをすでに報告しているが、このメカニズムについてさらに検討したところ、NMDA受容体やTRPV1の関与が示唆された。 また、皮膚に炎症を惹起させた後の後根神経節や脊髄におけるガングリオシドの生合成に関わる酵素の遺伝子発現量解析については引き続き解析する酵素を増やし、ガングリオシド合成全体としてどのように変化していくか検討を行った。昨年度までと同様に、炎症が持続している慢性期と炎症後間もない急性期の後根神経節および脊髄を採取し、糖転移酵素発現量についてリアルタイムPCRにより解析を行ったところ、多くの糖転移酵素発現量の変化が認められ、炎症の持続する期間により脊髄の糖脂質発現量がダイナミックに影響される可能性が示唆された。さらに、いくつかの糖転移酵素は発現量が減少するため、合成経路上、ガングリオシドを構成しているセラミドの基質となるアミノ酸であるL-セリンを経口投与した結果、炎症性疼痛が抑えられることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はシアル酸分解酵素による表皮内神経線維の組織学的解析を引き続き行った。微小な神経線維の形態変化について解析を行い、注目した構造については変動が認められたため、今後は再現性などについて検討をしていく予定である。 糖転移酵素の解析については予想以上に変化した酵素の種類が多かったため、特定の酵素と痛みの関連については示すことが出来なかったが、発現パターンの変化ととらえて解析を行う予定である。 シアル酸化合物の一つであるガングリオシドにより引き起こされる疼痛についても、その分子機構が少しずつ明らかになってきたので、今後より詳細に検討を行う。さらに、アミノ酸という安価な化合物かつ経口投与という簡便な方法で鎮痛効果が認められたため、鎮痛の方法として有意義なのではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、脊髄における糖転移酵素の発現量変化が予想よりも広範に生じたため、糖鎖(特にシアル酸)分解酵素についても検討を行い、脊髄の糖脂質生合成が総体として痛みが持続していく間にどのように変動する可能性があるか検討を行う。また、他の種類の慢性疼痛においても同様に検討を行うことで、この変化が普遍的であるかどうか検討する。 ガングリオシドにより引き起こされる痛みについては、阻害剤やアンタゴニストの解析により関与する可能性が見出された分子に対して、局在や活性についてガングリオシドの投与などによりどのように変化するか、培養細胞系を用いて検討を行う。 L-セリン経口投与については抑制性神経伝達物質であるグリシンやD-セリンへの代謝も考慮されるため、今後グリシン受容体やNMDA受容体のD-セリン結合サイトへのアンタゴニスト投与などを行ってその関与を確かめる必要がある。実際、この実験より以前に行った検討で、申請者は坐骨神経部分結紮モデルマウスにおける痛みがグリシンの経口投与によりやわらぐことを見出している。そのため、L-セリンとグリシンの比較をする必要がある。また、逆に慢性疼痛において血中、組織中、脳脊髄液中などのシアル酸などの糖の原料となる低分子化合物やアミノ酸が変動しうるか、またその変動により痛みが影響を受けるか検討を行っていきたい。
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Causes of Carryover |
機器購入費が割引により減少したため。
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