2016 Fiscal Year Research-status Report
地域特異性を示す病原性抗酸菌の感染源及び感染様式の実態解明
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16K09120
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Research Institution | Clinical Research Center, National Hospital Organization, Kinki-Chuo Chest Medical Center |
Principal Investigator |
吉田 志緒美 独立行政法人国立病院機構(近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター), その他部局等, 流動研究員 (40260806)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
露口 一成 独立行政法人国立病院機構(近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター), 臨床研究センター, 感染症研究部長 (00359308)
田丸 亜貴 大阪府立公衆衛生研究所, 感染症部, 主任研究員 (70270767)
西内 由紀子 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (00333526)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | Mycobacterium kansasii / 非結核性抗酸菌 / Mycobacterium arupense / 環境調査 / 菌種同定 |
Outline of Annual Research Achievements |
主な課題研究の実績は以下のとおりである。 1、河川水からのNTM分離に適した処理と培養法の確立。 河川中に存在するNTMを検出・同定するため、吸引濾過により表層水500 mLを0.2 μmポアサイズメンブレンでトラップした。このフィルタリング済みメンブレンをアルカリ処理し、抗酸菌以外の発育を抑制するPANTA(ポリミキシンB、アンホテリシンB、ナリジクス酸、トリメトプリム、アズロシリン)入りの7H11寒天培地上に静置し、36℃で3週間培養することで、雑菌を抑制し、且つ河川由来NTMを単離することに成功した。今回、一般的な環境サンプルの処理として採用されているメンブレンを物理的に破砕したのち抽出用試薬を用いてNTMを回収する方法とは異なり、ろ過後のメンブレンを直接処理し培地上に静置する方法を採用した事により、試料のロスを最小限に抑えつつ、試料中のNTMを効率よく捕捉することができた。今後、環境水のNTM調査における標準法として、広く普及するものと期待される。
2 河川水に生息するNTMの菌種分布。 石川採水4地点の合計8サンプルを実験に供し、最終的に65株を釣菌した。サンガー法によりrpoB遺伝子配列を決定しBlast解析により20種のNTMを同定できた。肺MAC症の原因菌であるMycobacterium intracellulareが検出され、ヒトに病原性を有するM. arupense やM. interjectumが検出されたが、M.kansasiiは検出されなかった、特にM. arupenseは河川を問わず、様々な箇所で検出されるクローナル性の高い菌種である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、夏季および冬季にあたる近畿地方の主な水源である淀川水系および猪名川水系の上・中・下流域から表層水を採取した。また、冬季の大和川(石川)河川水についても同様の採取を行い、生息するNTMの種類や分布、地域性などの特徴を見いだした。さらに、淀川河川中のNTM量を測定する系を立ち上げ、NTM総量にも季節性が見られることがわかった。これらの研究で得られた成果は河川のNTM全体像を把握し、NTM伝播を防ぐ水環境の保全に繋がると考えらえる。
石川採水の準備に時間がかかり、夏季における採水が実施できなかったことが悔やまれるが、冬季での採水は滞ることなく採水でき、予想を変える菌株数が確保された。これらの菌種にはヒトへの感染症が報告されているものや、病原性に乏しい菌種も含まれており、上水道から分離されるNTM菌種とは異なる分離頻度であった。今後、一層のサンプリングが必要になる。 また、患者への周知や研究同意における取得が思うように進まなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の課題 肺MAC症の原因菌であるM. intracellulareが地域性の異なる淀川、石川採水地点から分離されたのに対して、M. aviumは淀川にのみ分離できた。一方、M. arupenseのように分離頻度の高い菌種が確認でき、この現象が一時的なものなのか、それともNTMの地域別浸潤度の特徴としてあげられるものなのかを確認する必要がある。したがって引き続き、NTMの監視を継続し季節変動や天候の影響を絡めて評価する予定である。河川中NTM種の遺伝的特徴データを蓄積することで、NTMが生活環境における感染対策や河川の水環境の保全に繋がる有効な方法を検討・提案することが可能になると思われる。 患者居住地からの環境試料の採取を行い、NTMの分離を進める。動物から分離されるNTMのコレクションは充実してきたが、ヒトサンプル以外の新規M. kansasii株は分離できていない。今後さらに、肺M. kansasii症患者の住環境から試料を採取し、菌株分離を試みる。同時に動物NTM症例の情報提供やサンプルの確保に努め、学会発表を通して、ネットワークの構築を進める。
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Causes of Carryover |
夏季に予定していた採水実験が書記官との調整に時間がかかり、実施されなかった。したがって、今年度は1回しか採水することができなかったため、予定の実験計画より執行された金額が少なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度は予定通り夏季、冬季の河川採水を実施し、環境由来M. kansasii株の分離を目指す。M. kansasiiに関しては、同症患者への同意取得および住環境からの試料確保、菌株分離を行う。また、M. arupenseを対象に環境由来株と臨床分離株を収集し宿主適応性について検討を行う目的で、分離された株について比較ゲノム解析を行う予定である。 まず、抗酸菌感染が原因であった滑膜炎症例を集積し、細菌学的検査による菌分離を試みたうえで、症例ごとの比較調査を行う。また、2)登録されている基準株、環境および臨床分離株との間で比較ゲノム解析を行い、その遺伝的多様性と系統進化を調べる。 今まで充分研究されてこなかった新菌種による滑膜炎症に着手することで、ヒト宿主に適応した菌の遺伝的多様性と、それに関連するゲノム情報を獲得できる可能性がある。
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