2017 Fiscal Year Research-status Report
血管炎症による認知機能障害の機構解明-大動脈瘤誘導マウスモデルを用いた検討-
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16K09233
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
孫 輔卿 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 特任助教 (20625256)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 公一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (50330874)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 慢性炎症 / 血管老化 / マクロファージ / 認知機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は血管炎症が脳・神経の老化や機能低下を引き起こす作用機序を明らかにすることを目的とし、平成29年度は大動脈瘤の誘導により学習能力の有意な低下が認められた12ヶ月齢の自然老化マウスを用いて、炎症の拡大や波及の機序解明を形態学的、病理組織学的、血清学的な検討で行った。その結果、大動脈瘤の誘導により大動脈中膜のエラスチンやコラーゲン線維の破壊が認められ、またその病変では著明なマクロファージの浸潤が観察できた。さらに大動脈瘤の誘導群ではsham処置群に比べて、海馬の萎縮が著明であり神経細胞数の減少や活性化ミクログリア数の増加が明らかになった。これらの結果から血管炎症による大動脈瘤の形成が海馬の炎症や老化を引き起こすこと、さらに、血管炎症にはマクロファージが神経炎症には活性化ミクログリアが寄与する可能性が示唆された。 次に、血管炎症による神経炎症の惹起が全身性炎症制御機構の破綻を介するものであるかを検討するために、血中炎症性サイトカインの網羅的な探索を行った。その結果、中齢マウスにおいて、大動脈瘤の誘導群ではsham処置群に比べてインターロイキン系の炎症性サイトカインが上昇していることが明らかになった。また、老化促進マウスSAM(senescence accelerated mouse)の一系統で認知機能障害を呈するSAMP8に大動脈瘤を誘導するとsham処置群に比べて、血中IL-6やGM-CSFが上昇することが分かった。さらに、血中IL-6の濃度と学習能力(quadrant time)は負の相関関係にあることもわかり、血管炎症による神経炎症の惹起は血中炎症性サイトカインの上昇を介するものであり、特定の炎症性サイトカインが脳・神経への直接的または炎症性細胞への影響を介した間接的な影響を与える可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フレイルの基盤となる臓器老化の過程には階層構造が存在することが想定され、特に加齢に伴う炎症制御機構の破綻は血管から神経への炎症反応の波及・拡大に寄与することが考えられる。今年度は大動脈瘤の病変や海馬での炎症性細胞の局在を病理組織学的に評価し、フレイル関連臓器の加齢変化や老化病態において炎症が関与していることを確かめた。また、炎症の拡大や波及に寄与する全身性炎症制御機構の破綻を調べるために、血中炎症性サイトカインを網羅的に検討した結果、特定の炎症性サイトカインが血管老化による認知機能低下に関わることが明らかになった。さらに、認知機能障害を呈する老化促進マウスを用いて、血管炎症と神経炎症をつなぐ血中炎症因子を探索した結果、大動脈瘤の誘導により血中IL-6やGM-CSFの炎症性サイトカインが上昇することが突き詰めた。今後はインターロイキン系やGM-CSFなどの炎症性サイトカインが神経炎症および老化に寄与する作用機序を明らかにし、血管炎症から脳・神経炎症・老化につながる階層構造を明らかにすることを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は血管老化から認知機能低下の階層構造に寄与する炎症性細胞および特定の炎症性サイトカインの詳細な役割を追求する。具体的に血管炎症に寄与する炎症性細胞の正体及びその特徴、またマクロファージやGM-CSFを軸とした炎症反応の破綻経路を明らかにする。特に、マクロファージの炎症性形質についてIL-6、IL-12、IL-23などの炎症性サイトカインの発現および分泌量を検討する。さらに、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞を含む周辺の組織細胞に与える影響についても形態学的、病理組織学的に検討する。 血管炎症に伴う全身的な炎症反応の破綻に寄与するインターロイキン系やGM-CSFの炎症性サイトカインによる神経炎症の惹起を明らかにするために、in vitro実験系に展開する。具体的にはマウスのミクログリアを初期培養しインターロイキン系やGM-CSFの刺激により、ミクログリアの増殖能の亢進やneurotoxic表現型への変化があるかを検討する。さらに、ミクログリアにおいてそれぞれの受容体やTLR4、RAGEの発現および活性を検討するとともに、細胞内の分子機序としてAP-1、NFkB、STATの転写活性と下流のシグナル経路であるTNFaやIL-1bの発現や細胞外分泌量を検討する。神経炎症に関わるアストロサイトや神経細胞に対してもインターロイキン系やGM-CSFの影響が直接的な作用であるか、ミクログリアを介したアストロサイトの活性(TNFaやIL-1bの分泌量上昇、ROS、NO産生の上昇)や神経細胞のダメージ(アポトーシス)であるかを検討する。
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Causes of Carryover |
研究の順調な進行に伴い、最終年度である平成30年度には数多くの実験を計画しており、必要な物品や成果発表のため、今年度の残額を来年度に繰り越して使用することを事前に設定した。
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