2016 Fiscal Year Research-status Report
慢性心房細動アブレーションの新機軸提案に向けた臨床・インシリコ融合研究
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16K09431
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Research Institution | Shiga University of Medical Science |
Principal Investigator |
芦原 貴司 滋賀医科大学, 医学部, 助教(学内講師) (80396259)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小澤 友哉 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (20584395)
坂田 憲祐 滋賀医科大学, 医学部, 医員 (50773991)
原口 亮 兵庫県立大学, その他の研究科, 准教授 (00393215)
稲田 慎 姫路獨協大学, 医療保健学部, 准教授 (50349792)
中沢 一雄 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 非常勤研究員 (50198058)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 分子心臓学 / 不整脈学 / 慢性心房細動 / リアルタイム可視化 / in silico / 人工知能 |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢化社会を迎えたわが国において,脳梗塞や心不全に繋がる心房細動の治療は社会的急務である.ただし,発作性心房細動には有効なアブレーションの術式(肺静脈隔離術)が慢性心房細動には有効でない.慢性心房細動の治療標的を見定めるには,複雑な興奮動態のリアルタイム可視化が求められるが,臨床で満足に使える不整脈可視化装置は国内外に存在しなかった. 本研究は,過去装置の限界を克服すべく,申請者らが最近独自に開発した世界唯一の不整脈オンライン・リアルタイム位相マッピング装置(ExTRa Mapping)を用いることで,実臨床における慢性心房細動を映像化し,in silicoで理論的側面からも検討を重ね,その持続メカニズムの解明と,新たなアブレーション戦略の提案を目指すものである. 研究代表者らは,20年以上にわたりin silico不整脈研究に携わってきたが,ExTRa Mappingはそこで培った高度な科学技術計算を応用したものであり,改良は続けながらも,すでにプロトタイプは出来上がった.本研究はその延長線上にあり,慢性心房細動患者の興奮動態を瞬時に映像化することに世界で初めて成功した.その結果,患者毎に心房内における心房細動のドライバー(駆動機序)が異なり,ローター(スパイラルリエントリー)に基づく複雑な興奮動態も大きく異なっていることを発見した.また,従来から慢性心房細動のドライバーを反映するとして治療標的にされた間接的な心内電位指標が,実際のドライバーとは相関の低いことも示した.これは慢性心房細動アブレーションの治療標的を見定める上で,興奮動態を直接観察することの重要性を強く示唆するものである. これらの研究成果は,国内外の関連学会で一般講演のみならず招待講演としても数多く報告し,1200名の大観衆を前にExTRa Mappingを用いた慢性心房細動アブレーションライブも披露した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究代表者の芦原らが開発してきた不整脈オンライン・リアルタイム位相マッピング装置(ExTRa Mapping)は,直径2.5 cmの渦巻き型20極カテーテルで記録した心房内電位情報に基づき,41の双極シグナルを算出し,足りない電気生理学的情報と時空間情報をin silico(コンピュータシミュレーション)とAI(人工知能)で補完してリアルタイムの不整脈映像を得るシステムである. 初年度となる平成28年度は,研究分担者らの協力のもと,本装置にいくつかの改良を加えるなかで,心房細動の興奮波動態を自動判別するシステムも組み入れ,解析結果に客観性を持たせた.また,マッピング精度についてもin silicoを用いて検証を重ね,心内電位の検出効率の向上,時空間情報の補完精度の向上,可視化処理のさらなる高速化,操作にかかるユーザビリティ改善等に努めた.開発に必要な計算ソフトウェア(in silico用コードを含む)は,研究代表者の芦原が,研究分担者である原口らの協力を得て滋賀医科大学に組み上げたクラスタ型高性能ワークステーション(本科研費で維持費をに賄った)でC言語を用いて開発した. そして,本学附属病院の慢性心房細動アブレーション患者にExTRa Mappingを適用し,心房細動中の興奮動態の動画を集積した.その臨床データに基づいて興奮動態を分析し,慢性心房細動の持続メカニズムとしては,定在ローター(中心位置が移動しない興奮旋回)が存在せず,心房内をミアンダリング(さまよい運動)する複数のローターで構成される非受動的興奮領域がドライバーとしての役割を担っていることを突き止めた. これらの研究成果は,平成28年度だけでも国内外の関連学会で一般講演のみならず数多くの招待講演で発表し,1200名の大観衆を前にExTRa Mappingを用いた慢性心房細動アブレーションライブでも披露した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度以降も,当初の計画通り,前年度に引き続き,これまでに開発したExTRa Mappingの改良を継続する.とくに低電位領域や弁輪部領域のように,検出すべき電位シグナルが小さすぎたり,除去すべきノイズが混入したりする場合にはうまく映像化されないことがあり,AIを導入したが,一部のアルゴリズムには見直しが必要である. また,前年度に引き続き,ExTRa Mappingによる臨床データを集積するとともに,慢性心房細動の興奮動態を分析し,心房細動の持続メカニズムにかかる患者間の違いや,治療標的となりうる心内電位指標等について,過去研究で用いられた間接的な心内電位指標と比較しながら解析する.本結果を,ヒト慢性心房細動の数学モデルを用いたin silicoと絡めることで,将来的にはオーダーメイドの心房細動治療に繋がる重要な知見が得られると考えている. さらに,本学附属病院における慢性心房細動アブレーションにおいて,ExTRa Mappingで判明した慢性心房細動ドライバーを治療標的とし,その急性期の有用性と慢性期の非再発率を明らかにする.なお,本研究計画の開始直前に,本装置が医薬品医療機器等法(旧薬事法)に則って承認され,現行の保険制度の範囲内で使える医療機器として認められたことで,実質診療として本装置をアブレーション現場で用いられるようになったため,この部分については前倒しし,初年度から治療データも合わせて取得している.今後は,治療データを集計するとともに,新たな術式の開発・改良に向けて,無作為化臨床試験への発展の可能性も見据え,検討を重ねる予定である. 本研究により,これまで根治率が約30%とされた慢性心房細動アブレーションの成績を向上できれば,わが国だけでも約50万人と高い有病率を示す難治性慢性心房細動に対する治療のあり方を,大きなインパクトをもって変革できるであろう.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が上記のような金額となった理由は,所属研究機関が研究代表者とは異なる研究分担者の原口亮と稲田慎が,それぞれの研究進捗状況に合わせ,研究費使用状況に若干の偏りが生じ,調整したためと報告を受けている.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これらの未使用額については,それぞれ次年度に適切な出張費および消耗品費として繰り越す予定である.
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