2016 Fiscal Year Research-status Report
新規病因遺伝子に基づく筋萎縮性側索硬化症の共通病態解明と治療基盤開発
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16K09689
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
高橋 祐二 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 病院, 部長 (00372392)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 筋萎縮性側索硬化症 / ErbB4 / 神経細胞 / 初代培養 / ノックアウトマウス |
Outline of Annual Research Achievements |
ALS19の病因遺伝子ERBB4は、Neuregulin(NRG)をリガンドとする受容体型チロシンリン酸化酵素である。ERBB4の病原性変異は自己リン酸化能の低下をもたらす。孤発性ALS運動神経細胞において発症早期の染色性低下・局在異常が認められる。本研究は、ErbB4の機能障害が運動神経細胞死をもたらす機構を明らかにし、ALSの分子病態を解明することが目的である。さらに、孤発性ALSの病態に則した疾患モデル動物を構築し、表現型分析・病理学的検討・生理学的検討によりモデル動物としての妥当性を検証する。本年度は、研究初年度として研究基盤の確立を推進した。ErbB4の核移行・細胞質移行型/PI3活性化・非活性化各アイソフォームの野生型・変異型発現ベクターを構築し、Flip-In法を用いてHEK293細胞由来の定常発現細胞系を構築した。これらの発現ベクターを活用して、野生型・変異型発現アデノウイルスベクターを作製した。マウス大脳皮質神経細胞由来初代培養細胞に対して、アデノウイルスベクターを用いた遺伝子導入実験を行い、発現を確認するとともに、細胞内局在・細胞形態に対する影響を分析した。脊髄運動神経細胞のexplant cultureの系を確立した。脊髄運動神経細胞特異的なErbb4コンディショナルノックアウトマウスの作製に着手した。本研究により、ALSの共通分子病態解明・治療研究基盤の確立・病態抑制治療シーズ開発に繋がる分子標的の同定・発症に関連する環境要因の探索指針がもたらされると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①HEK293細胞由来テトラサイクリン誘導性野生型・変異型ErbB4定常発現細胞の構築:ErbB4の4種類のアイソフォーム(核移行・細胞質移行型/PI3活性型・非活性型)の野生型・変異型発現ベクターを作成した。Flip-Inシステムを用いてHEK293細胞に導入し、定常発現細胞を作成した。テトラサイクリン付加による発現をWestern blottingで確認した。②マウス大脳皮質神経細胞・脊髄運動神経細胞由来初代培養細胞への野生型・変異型ERBB4遺伝子導入実験系の確立:上記発現ベクターを用いて、Electropolation法、Lipofectamine法による遺伝子導入実験を行ったが、良好な導入効率を得られなかった。そこで、これらの発現ベクターをベースにして、野生型・変異型発現アデノウイルスベクターを構築した。マウス胎生E13-15から剔出した大脳皮質神経細胞由来初代培養細胞に遺伝子導入実験を行った。Western blottingで発現を確認した。免疫細胞化学により、各アイソフォームの細胞内局在を確認した。一方、脊髄運動神経細胞については、当初は濃度勾配法による単離を試みたが、十分な回収率を得られなかった。細胞周辺環境の影響も無視できないことから、explant cultureによる培養系を確立した。 ③タモキシフェン依存性脊髄運動神経細胞特異的Erbb4コンディショナルノックアウトマウスの作製:Erbb4flox/floxマウスをと129-Chattml(cre/ERT)Nat/Jマウスを凍結胚で入手した。
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Strategy for Future Research Activity |
①HEK293細胞由来テトラサイクリン誘導性野生型・変異型ErbB4定常発現細胞の構築:このシステムにおいては、Western blottingレベルでは発現が確認できるものの、免疫細胞化学では発現が不十分であった。ただし、細胞レベルでのシグナリングの分析、遺伝子発現の影響に関しては、より生理的な発現量に近い状態で観察できる。従って、NRG刺激によるシグナリングの分析、変異の影響の解析には活用できる。 ②マウス大脳皮質神経細胞・脊髄運動神経細胞由来初代培養細胞への野生型・変異型ERBB4遺伝子導入実験系の確立:初年度で大脳皮質神経細胞、脊髄運動神経細胞の培養系を確立し、アデノウイルスベクターによる遺伝子導入実験も可能となった。おおむね順調に進捗している。次年度は、実際に神経細胞にどの様な変化が得られているのか、特に軸索伸長に着目して分析し、アイソフォームの違い、変異による影響を明らかにする。 ③タモキシフェン依存性脊髄運動神経細胞特異的Erbb4コンディショナルノックアウトマウスの作製:コンディショナルノックアウトマウスの作製に必要な2系統の凍結胚を入手した。おおむね順調に進捗している。次年度は129-Chattml(cre/ERT)Nat/Jマウスも同様に個体再生・バッククロスを開始する。さらに、B6;129S4-Gt(ROSA926Sortm1Sor/Jマウスと129-Chattml(cre/ERT)Nat/Jを掛け合わせ、Creの運動神経細胞における発現を確認する。その後、Erbb4flox/floxマウスと129-Chattml(cre/ERT)Nat/Jマウスの掛け合わせを行い、コンディショナルノックアウトマウスの作製を開始する。
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Causes of Carryover |
今年度の実験について、既存の備品及び消耗品で実施可能であった。また、コンディショナルノックアウトの作製についても、当初は日本クレア株式会社に外部委託する予定であったが、主任研究者の研究施設における動物実験施設が使用可能な態勢が整備されたため、外部委託するための費用が不要になった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降、コンディショナルノックアウト作製にかかる費用が多く発生することが見込まれるため、マウスの作製に重点的に研究費を使用する。また、培養細胞系を用いた実験においても、RNA-Seqを用いたトランスクリプトーム解析などの網羅的解析を検討している為、それらの消耗品に関して予算を充当する。
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